Edo Side Story【08】 私情と仕事銀時が朝起きると、机には朝食が用意されていて、書置きがあった。 その書置きはが書いたもので、きっと朝食を用意したのもだろう。 彼女は、真選組に行ったのだろう。今は決して遅い時間ではないから、彼女は一体何時に起きて行ったのだろうか。 が用意した朝食を食べながら、今日が笑顔で戻ってくればいいなと考えていた。 「おはようございます」 食堂を開けた隊士は一瞬、自分の目を疑った。 食堂では、いつものように、が朝食を作っていたのだ。 「いつもより準備を始めるのが遅くなったので、手伝ってもらえますか?」 朝は彼女は来ないことになっていた。 通いだとどうしても朝が早くなるから、彼女の出勤は隊士達が見回りに出る頃のはずだった。 だが、目の前にはいる。 一瞬呆けたが、隊士は返事をし、を手伝った。そして、その後に来たほかの隊士達も同じ反応だったことは言うまでもない。 「ちゃん。無理はしなくていいんだぞ?」 朝早くから真選組の朝食を用意していたに、近藤は声をかけた。 万事屋から真選組の屯所までは決して近くはない。だからこそ、少し遅めの時間からという事になっていたのだ。 「大丈夫です。前みたいに皆さんが朝稽古から帰って来た後直ぐにというように用意はできませんし、皆さんに手伝って頂かないといけませんけど」 そう言って微笑むに、近藤はこれ以上言っても無駄だと知った。 「体調が悪い時なんかは言うんだぞ」 「はい。……あの、それと……土方さんは……」 「トシか? トシなら今は巡回中だ」 「……そうですか……」 朝食の時、土方はさっさと終わらせ、と言葉を交わすこともなく食堂を出て行った。 彼は仕事で忙しいのだ。きっと今日だって仕事が多くあるから、それを急いで片付けなければいけなかったのだろう。 今までだって、忙しい時は言葉を交わす時が少ない日だってあった。今に始まったことではない。 はそう、自分に言い聞かせた。 「近藤さん。そろそろ、仕事に戻りますね」 「おお、頼んだよ」 は一礼し、局長室を後にした。 「まずは、洗濯かな」 洗濯室に向かう途中、山崎に会った。 山崎は一瞬身を固めたが、直ぐにいつもの調子に戻る。彼が一瞬身を固めたことは、は気づいていない。 「あ、山崎さん、お疲れ様です」 「お疲れ様です。さんも朝早くからすみません」 「私が好きでやってることだから」 ふんわりとした笑顔で答えるを見て、山崎はやりきれない思いを感じる。 「そ、それでも、俺達には本当に助かってますよ。旦那のとこに住むことになって、もう来ないかと思ってたんですから。……副長だって……」 山崎の最後の言葉は、あまりに小さすぎ、には聞こえなかった。 「記憶を失くした私を置いてくれてたんだもの、そのお返しはしなきゃ」 「でも、あまり無理しないで下さいね。さんに何かあれば、俺達、旦那に怨まれますから」 「近藤さんにも同じようなこと言われたわ。皆心配症なのね。あ、ごめんなさい、仕事中に長話してしまって」 また、後で。と手を振り去って行くを見つめる山崎の表情は、悲しそうな物だった。 が万事屋に引っ越した日。山崎は土方に「の素性を調べろ」と言われた。 「さんの? ……副長、アンタまでストーカーに……」 「違ぇーよ。万事屋の野郎はの兄だと名乗ったが、俺にはアイツがの兄だとは思えねー」 「確かに似てませんけど……。でも、旦那がさんに害を与えるとは思えませんけど」 「ああ、あの野郎のトコに置いても、に何も害はないだろう。それ所か、きっと、あの野郎はを守るに違いない」 「じゃあ、いいじゃないですか」 「だが、あの野郎はの兄じゃねえ。だが、兄と名乗るからには、何かあるんだろ。それを探れ」 「副長……男の嫉妬は……。分かりました。調べてみます」 土方の表情は、嫉妬した男の物ではなく、鬼の副長の顔だった。多少私情が入っているにせよ、彼は副長として山崎に命じたのだ。 土方が何を疑っているのか、彼女を調べることで何が出てくるのか、今の段階ではまだ分からない。だが、彼女を調べるのは気分のいい物ではない。 調べたことで、彼女の笑顔が無くなってしまうのではないか、そう山崎は危惧していた。 次へ 戻る 卯月 静 (08/07/13) |