Edo Side Story【09】 恋心と失恋「なあ、。お前、土方十四郎のことどう思ってる?」 晩ご飯の準備をしていたら、銀時に突然そんなことを聞かれた。 「え? 土方さんのこと? えっと……」 「好きなのか?」 「真選組の人は皆好きだよ」 「そうじゃない。男として惚れてるのかって聞いてんだ」 いつものやる気のない目ではなく、今の銀時の目は真剣そのものだった。 「……そんなこと言われても、分からない……」 自分が土方のことを好きかどうかなんて、自分でも分からない。 真選組でいる時、彼は優しくしてくれた。だが、それは他の真選組の皆だって一緒だ。 一緒にいると安心するし、居心地がいいと思う。でも、それは銀時にだって感じる。 これが、恋かどうかなんて……。 「やめとけ」 「え?」 「アイツは仕事一筋だ。惚れたところで、お前が泣く羽目になるだけだ」 「だから、分からないって……」 「それに、アイツには忘れられない相手がいる」 心臓を握り潰されるような感覚に陥った。 銀時のその言葉を聞くまでは、呆れ気味に、そして、少し照れながら答えていたが、土方に忘れられない相手がいると聞いた瞬間、心臓を、心がぎゅぅと絞まったように思えた。 は、無意識に、胸元の指輪を握り締める。 「……そ、そうなんだ……モテるもんね、土方さん……」 「沖田君のお姉さんらしいぞ。こっちに来る前からだとよ」 沖田の姉なら、きっと綺麗な人に違いない。それに、真選組になる前からということは、付き合いも深いのだろう。 「……だ、だから、別に土方さんのことなんて……」 「そうか。ならいいけどよ」 銀時はそのまま持っていたジャンプに視線を戻した。 は、晩ご飯の準備をしていたにも関わらず、部屋に戻って行ってしまった。 我ながら卑怯だと思う。 の居なくなった部屋で、銀時は溜息を吐きながら、先ほどのことを思い返していた。 「土方には忘れられない相手がいる」それは嘘ではない。沖田の姉、ミツバに土方が惚れていたのは間違いないし、忘れてもいないだろう。 だが、今、土方が想う相手はだという事を、銀時は知っている。 二人は両思いであることも知ってる。多分、発破を掛ければ、土方とがくっ付くのに時間は掛からないはずだ。 だが、あの二人は駄目なのだ。 銀時が土方を嫌っているからではない。 が惚れた相手なら、一発相手の男を殴って、祝福してやる気ではいる。 だが、土方は駄目だ。 きっと、後々苦しむことになる。 お互いがお互いのことを想い、それ故に苦しむことになる。 「妹悲しませて、いいのかよ、お前は……」 は部屋で泣いていた。 今の今になって、初めて自分の気持ちに気づくなんて……。 土方に好きな人がいると、そう聞いてショックを受ける自分がいた。 一瞬、土方の想い人である、沖田の姉に嫉妬した。 「気づいた途端に、失恋なんて……」 バカみたいだ。 銀時に言われなければ、気づくことはなかった。だからといって銀時を怨んでいるわけではない。 今なら、まだ、彼を諦められるかもしれない。 そう、今ならまだ……。 「只今帰りましたー」 「お腹空いたヨ。今日のご飯は、何アルか」 帰ってきた新八は、部屋の空気がおかしいことに気づいた。 そして、晩ご飯の準備の途中のようにみえるのに、いるはずのの姿がない。 「銀さーん。さんは?」 「なら部屋だ。悪ぃが、新八、それの続き頼むわ」 「さん具合でも悪いんですか?」 「風邪か? 何か変な物でも食ったアルか?」 「今はそっとしといてやれ」 ご飯の途中に部屋に行くなんて、きっとよっぽどのことがあったのだろう。 神楽はの部屋に行こうとして、銀時に止められていた。 気にはなるが、今聞いても銀時は教えてくれないに違いない。今は今晩の為にこの晩ご飯の続きをしなければいけない。 次へ 戻る 卯月 静 (08/07/15) |