Edo Side Story【11】 怪我と告白最近、真選組の出動が多い。 それは必然的に、攘夷派のテロが増えているということでもある。 テロの現場は決して安全なものではない。 しかも、真選組は局長自ら現場に出向く。真選組の幹部といえど、安全ではないのだ。 「少し、染みるかもしれませんよ」 毎日、傷を作って帰ってくる隊士達。 それをは手当てしていた。勿論大怪我を負った隊士は手に負えないが、少しくらいの傷の手当ならできる。 「はい、できました」 手当てが完了すると笑顔をくれるに、隊士達は癒されていた。 軽い怪我はの世話になれるが、大怪我は病院行きでの手当ては受けられない。 そう思う隊士が増え、怪我をしてこそ帰ってくるが、命に別状のある者は滅多にいない。 そんなある日。 「さんッ! 副長がっ!」 隊士の傷の手当をしていたの所に、山崎が駆け込んでくる。 山崎はの手を引き、走る。はただ、引かれるまま走った。最悪の事態を考えてしまい、の顔は蒼白だ。 着いた先は土方の部屋。 中には布団に寝かされた土方がいた。 一目で重症と分かる傷。 「……土方さん……」 土方の傍に座り込むと、涙がポロポロと零れて来た。 ここにいるのだから、命に別状はないのだろう。だけど、それでも涙が溢れて止まらない。 泣くの頬を何かが触れた。 それは、目を覚ましていた土方の手だった。 目を開けると、泣いている女が目に入った。 ポロポロと次々に落ちてくる涙。それを見て、思わず、彼女の頬に手を添えた。 彼女は驚いているようだったが、そのお陰か、涙は引っ込んでいた。 「……泣いてんじゃねえよ」 「だって……土方さん、が……」 折角引っ込んでいたのに、また彼女の、の目から涙が溢れ零れる。 久々に言葉を交わして、久々に正面から彼女を見たのに、泣き顔とは。 「……俺は、生きてる。死んじゃいねえ」 「……は、い……」 「だから、泣くな」 自分でも驚く程、優しい声が出た。 自分からこんな声が出るとは思ってもいなかった。 「……はい」 本当に、久々にの笑顔が見れた……。目に涙を溜めたままではあったが、ずっと見たいと欲していたモノ。 自分を覗き込む彼女を、抱き寄せたい衝動に駆られ、手を伸ばしたが、先ほどの彼女の泣き顔が頭を過ぎる。 そうだ、自分は鬼の副長で、いつ死ぬとも知れない身。これから先また同じことが起きて、彼女を泣かせることになる。 それに彼女は……。 そう思うと、を抱き寄せることはできず、伸ばした手は彼女の頭に持って行き、ただそっと撫でるしかできなかった。 「土方さんが無事で、よかった」 「心配掛けたな」 「いいえ、生きて帰ってきてくれればそれでいいです」 笑顔で答える彼女は、なんと強いことだろう。 「……土方さん……」 は、下を向き、胸元の指輪を握っている。 「……私……」 「?」 「……私、貴方が好きです……」 再び視線が合った彼女の瞳は真っ直ぐで、逸らすことはできなかった。 それどころか、自分の中の彼女への思いが、あふれ出そうで、土方はそれを寸でのところで、抑える。 傷ついた体を、何とか起こし、彼女の方へ向く。 「……俺は、真選組の副長だ。いつ死ぬとも分からねえ身だ……」 「分かってます」 彼女は、それでもよいというのだろう。だけど、それではいけない。彼女のあの泣き顔は二度とさせたくはない。そう、土方は思っていた。 だが、から帰ってきたのは、土方の予想もしていなかった言葉。 「だから、振って下さい」 土方は目を見開いて、を見た。彼女は真っ直ぐ土方を見ている。 「土方さんに忘れられない方がいることも知ってます。私が入る隙なんかないことも分かってます。本当は、何も告げず、このまま諦める方がよかったんだと思います。土方さんは優しいから、きっと私が告げれば悩むに決まってます」 彼女はミツバのことを知っている。いや、思い違いをしていると言った方が正しいか。 は土方がいまだにミツバのことを想っているのだと、そう思っているに違いない。 「でも、私は弱いから、キッパリ振って貰わないと、諦めきれないみたいです。……だから……だから、振って下さい。自分には想う人が別にいるから、私の気持ちには応えられないと」 は、下を俯き、胸元で拳を握っている。 少しばかり方が震えているのは、泣いているからなのだろうか。 「……俺は……」 ここで、彼女を振れば、全てが終わる。彼女が自ら振ってくれと言っているのだから、彼女の為にもそれが正しいのだ。 山崎が持って来た報告書と銀時の言葉が頭を過ぎる。 同時に、震える彼女を抱きしめたいとも思う。 ここで、彼女を抱きしめたら、後で彼女が苦しむ時がくるのは、分かっている。 だが……。 「……土方、さん……?」 土方は、しっかりとを抱きしめていた。 いつの間にか体が動いていた。 「……好きだ……」 「う、そ……」 信じられない展開に、は呆然とする。 それとは反対に、土方がを抱きしめる腕に力が込められる。 「俺は、ずっと傍にいてやるとも、幸せにしてやるとも約束してやれねえ。きっと、今日みたいなことがこの先何回も起る」 「それでも構いません。こうやって、土方さんが生きていることを感じることができるなら、それだけで、貴方の傍に居られるだけで、幸せなんです」 は、そっと土方の背に自分の腕を回した。 二人は、暫くの間、お互いの温もりを感じていた。 次へ 戻る 卯月 静 (08/07/22) |