Edo Side Story【13】 デートと遊園地土方とのことは、その日のうちに、沖田によって、真選組中が知ることとなった。 に淡い思いを抱いていた隊士も少なからずいたわけで、ショックを受ける者も多かった。 それどころか、そういった隊士達を沖田が煽るものだから、視線は痛いわ、沖田と協力して襲撃はしてくるわで、今まで以上に疲れる。 「ちゃんは、副長のものかぁ〜」 「俺達の癒しだったのになぁ〜」 「絶対職権乱用だろ」 「きっと土方さんが無理矢理、さんを襲ったんですぜィ」 「って、総悟テメーどさくさにまぎれて、何吹き込もうとしてやがるっ!!」 隊士達の噂話に、紛れ込み、あらぬ噂を吹き込もうとした沖田だったが、あと少しというところで、話していたのが聞こえたのか、噂の本人に遮られ失敗してしまった。 「何言ってんですかィ。もうさんとチューまでした仲だろ」 「マジですかっ!! 隊長っ!!!」 「ああ〜。さんの純潔がぁ〜」 「まだ、手は出してねーよっ!!」 土方の言葉に、沖田と隊士達は目を丸くする。 「またまた〜。土方さんとあろうお人が今だ手出さないなんて、嘘ついちゃいけませんぜィ。両思いになった翌日に、さんからのキス受けたのを俺はバッチリ見ましたぜィ」 「…………あん時だけだ」 「は?」 「だから、あの後は何も手出してねーって言ってんだよ」 「土方さん、マジですかィ?」 「……ああ」 真選組の副長で、見目も良く、はっきり言ってモテる土方が、奥手なはずはない。 実際女性の扱いは上手い。 だが、彼はとの関係は一向に進展していないと言った。 「ヘタレな男は、そのうちさんに愛想つかされますぜ」 「誰の所為だと思ってやがるっ」 との関係が一向に進まないのは、一重に総悟の所為だ。 だが、総悟は酷く侵害だという表情をしている。 「後一歩ってところで、いつもいつも、テメーが邪魔してんだろーがぁぁッ!!!」 仕事が忙しいし、は屯所で働いている。そうなると、必然的に、二人で外に出かけるというよりも、屯所の中、専ら土方の部屋で二人で過ごすこととなる。 もちろん、二人っきりでいれば、それなりに良い雰囲気になるのだが、毎度毎度総悟の邪魔が入る。 その上、帰り際、誰も隊士がいない時にと思っても、あの銀髪の過保護なの兄が迎えに来て邪魔をする。 そうなると、手なんか出すタイミングなどない。 「あ、土方さん。ここに居たんですね」 パタパタと小走りにが来た。 「土方さん来週の日曜お休みでしたよね?」 「ああ」 「私もお休み貰えたんです。それと、これを近藤さんから貰ったんで、よかったら行きませんか」 ふわりと微笑んで、は遊園地のチケットを二枚土方に見せた。 思わぬお誘いに、一瞬虚を突かれた土方だが、からの誘いだ、断るはずもない。 「そうだな。行くか」 「約束ですからね。忘れないで下さいよ」 「ああ」 まだ掃除の途中だからと、はその場を去っていった。 面白くないのは、その場にいた沖田と隊士達。 目の前で、イチャつかれて面白いはずも無い。 「いいな〜。俺もちゃんとデートしてー」 「お前じゃ無理だって」 「さんから誘わせるなんて、土方コノヤローは大層な色男ですねェ」 とのデートが決まったお陰か、今は総悟の嫌味もあまり気にならない。 土方は、小さく、「うるせー」と呟いただけで自室に戻っていった。 仕事が忙しいため、デートなどしていない。 本当なら、土方から誘うべきなのだろうが、に先を越されてしまった。 土方は我知らず、口元は緩み、いつも以上に上機嫌だった。 約束の日。二人とも休みだと言うことで、遊園地の前で待ち合わせることになった。 「やっぱ、まだ来てねーか」 待ち合わせの時間よりも30分ほど早い。 楽しみだということもあったし、屯所を上手く抜けるには、この時間くらいしかタイミングが無かった。 まだまだ、時間もあるということで、気持ちを落ち着かせる為、煙草に火を点け、深く吸った。 「土方さんっ!」 急に声を掛けられ、土方の心臓が跳ねる。 「早かったんですね。まだ15分前ですよ」 「それは、お前もだろ」 「待たせちゃいましたか?」 「いや。そんなに待っちゃいねえ。待ったのは2、3分だ」 「よかった。あまり待たせたら悪いなって思ってたので。じゃあ、行きましょう」 ふわりと笑って、土方の手を引く。 先ほどの会話は正しく、恋人同士の会話だ。別に、あのような会話に憧れていたわけではないが、やっぱり柄にもなく、嬉しく思ってしまう。 そして、土方はに引かれながら、手元を見る。 しっかりと手を繋いでいる。それだけで、嬉しく思ってしまう自分に苦笑する。 「そんなに急ぐとこけるぞ」 の横に並ぶくらいの速度まで上げ、そして、に握られていた手を一回解き、再び握る。 今度は、指を一本一本からませている。所謂、「恋人繋ぎ」というやつだ。 普通の、一般的に言う幸せなんて、自分と無縁だと思っていた。 いつ落とすかもしれない命だし、そもそも、好いた女がいたとしても、彼女の為にこの命を使うことはない。自分が最優先させるのは、きっとどんな時も、真選組であり、近藤だ。 だからこそ、惚れた女と、こうやって幸せを感じながら過ごすことができるなどと、思ってもみなかった。 「土方さん、次はあそこに行きましょう」 「……マジか……」 が指差したのは、お化け屋敷。 遊園地のお化け屋敷といえば、定番だ。暗い中で、恐がる彼女が自分に抱きついて、自然に密着できるという美味しいシチュエーションが体験できる。 あわよくば、恐がる彼女の前でかっこいいとこを見せて、惚れ直してもらうという点数稼ぎにも使われる。 ようは、カップルが行くには外せないだろうアトラクション。 だが、そんな美味しいアトラクションにも関わらず、土方には鬼門だ。 「どうかしました?」 「……いや……」 断じて恐いわけではない。 ただ、態々遊園地に来て、暗く、殆ど何も見えない視界の悪いところに行く必要はないだろうと思う。 遊園地は明るく、楽しむものだ。 断じて恐い訳ではない。 だが、土方の顔色は見る見る青くなっていく。 「……土方さん」 「な、何だ!?」 返事をした土方の声は裏返っていた。 「やっぱり、お化け屋敷は止めにしましょう」 にこりと応えるに、土方は軽く目を見開いて驚く。 がお化け屋敷を差した時、とても楽しみだという表情をしていた。だから、行かないと答えることもできなかったし、かといって行くとも言えなかったのだ。 「家帰った時に、お化け屋敷の事思い出したら恐いので」 「……」 「その代り、あれに乗りましょう」 土方をからかうでもなく、無理矢理連れていくでもなく、あっさりと、そして、土方のプライドを壊さないように変更する。 そんなに対し自分自身が情けないと思いつつ、そして、そんな風に気遣ってくれるを尚愛おしいと思う。 「土方さん? 聞いてます?」 「お、おお……」 「もうすぐ列ができて乗れなくなっちゃいそうなので、早く行きましょう」 そういって、が土方の手を引き向かった先は観覧車だった。 次へ 戻る 卯月 静 (08/08/07) |