Edo Side Story【15】 指名手配と声真選組屯所。現在ここでは幹部による会議は行われていた。 「最近、高杉率いる、鬼兵隊が、なにやら活発に動いているらしい」 近藤の報告に、皆真剣な顔だ。 中でも、土方の目はいつも異常に鋭い。 「入った情報によると、テロを計画しているのではなく、何かを探しているらしい。その何か未だに不明だが、皆心して勤務に励むように」 会議が終り、土方は自室に戻った。すると、部屋の前では山崎が待っていた。 「調べがついたのか」 「はい」 山崎に中へ入れと促し、机の前に座る。 「高杉が探しているのは、女だと判明しました」 「そうか」 「副長、高杉が探しているのは、やっぱり」 「いいか、これは俺とお前だけが知ることだ。近藤さんには言うな。あの人のことだ、余計なもんまで抱えこんじまう」 「分かってます」 「それと、もう一つ、お前に頼みたいことがある」 「お醤油とお砂糖と……これくらいあれば、業者さんが持って来てくれるまでは持つかな」 の手に持っている袋の中は醤油と砂糖。 人数の多い屯所では、材料は業者が届けてくれる。だが、調味料はまとめての配達になるために、少し足りない場合は、配達の日までに買い足しておかなければいけない。 味の無いご飯は誰でも食べたくはないはずだ。 「買いだしか?」 「土方さん! お疲れ様です」 声をかけられ、振り返れば、見回り中であろう土方がいた。 「ここらで過激派の指名手配の男の目撃情報があった。もしかしたら、捕り物になるかもしれねーから、早くこの場所から離れて、屯所に帰れ。また記憶を失くされちゃ堪らないからな」 からかうように言われ、は口を尖らせる。 それを見て土方は苦笑する。 「頭打ったら、今度は記憶が戻るかもしれませんよー」 「そんなに単純にはいかねーよ。……お前の記憶は戻らない方がいいんだ……」 の軽口に土方は笑いながら答える。最も最後の言葉はには聞こえない程度の声だったために、の耳には届かなかった。 「ともかく、もう買い物は済んだんだろ。今日は送ってやれねーが、気をつけて帰れよ」 「はい。今夜は、シチューですからね。早く帰ってこないと皆さんに食べられちゃいますよ」 「ああ、出来るだけ早く帰るさ」 去っていくを見送る。 の姿がある程度小さくなったところで、後ろから沖田が声を掛けた。 「新婚の夫婦ですかィ、あんた等。天下の副長が街中でイチャイチャするなんて、副長失格なんじゃねえですか」 「イチャイチャなんてしてねーよ。それより、気引き締めろよ、ヤツはここら付近にいるかもしれねえんだからな」 「分かってやす」 からかう沖田の顔が、一瞬にして一番隊隊長の物になる。 土方に言われた通り、は早く帰ろうと、足早に屯所に向かっていた。 先ほどは頭を打てば、記憶が戻るなんて言ったが、頭を打って、今度は土方達のことを忘れてしまったのでは洒落にならない。 それに、夕食の準備も早く戻らないと間に合わない。 「見つけたぜェ」 低い、どこかで聞いたことのあるような声がしたと思えば、は腕を引かれ、路地裏に連れ込まれた。 そして、後ろから、動けないように、抱きかかえられる。 抵抗してみるものの、男の力だ何の解決にもならない。 「クク。まさか真選組なんかにいるとは思わなかったぜ」 背後から聞こえてくる声にゾクリとする。 この男がきっと土方の言っていた指名手配の過激派なのだろう。 「……今は記憶が無いんだったか……」 「なんで……それを……」 「……まあいい、早く俺を思い出せ……思い出したら、迎えに行ってやる」 「貴方のことなんて、知りません」 はそう言う物の、この男を自分は知っているのではないかと感じていた。 いや、きっと知っているのだ。 「……、置いていって悪かったな……」 今までの言葉の中で一番優しい声音だった。 そして、ふわりと頭に置かれた手がとても優しい。 男はそのまま闇へ消えていった。 しばらくは呆けていたが、我に返り屯所に帰った。 しかし、あの男に会ったことを誰にも言えなかった。過激派の指名手配の男かもしれないのにだ。 次へ 戻る 卯月 静 (08/08/19) |