Edo Side Story

【18】 買い物と視線





「別れて正解ネ。あのマヨラーには勿体無いアル」

 万事屋で、朝食を囲みながら、神楽は頷いている。
 戻って直ぐに、は土方と別れたことを万事屋の三人に告げた。
 新八は酷く驚いていたが、の様子を見てのことなのか、深くは突っ込んでこない。神楽は先ほどのように、別れて正解だと言った。
 銀時にはあらかじめ言ってあったから、彼は何も言わなかった。ただ、悲しそうにを見るだけだ。

「神楽ちゃん、もういいでしょ、その話題」

 盛り上がる神楽を宥め、新八は話題を変えた。
 深くは追求されず、こうやって話題も変えてくれる。これは甘えだとは分かっているが、にとってはとてもありがたかった。
 今日は珍しく仕事が入ったようで、万事屋の三人は出て行った。
 一人になるとどうしても考えてしまう。
 真選組を辞めたことも、土方と別れたことも、正しい判断だったと思っている。攘夷浪士、それも過激派の高杉の妹が真選組にいていいはずがない。
 それは頭では分かっていても、心はついていかない。
 離れたくはなかった。ずっとあの場所に、土方の隣にいたかった。
 彼を忘れるにはそうとうの時間がかかりそうだ。今だって、土方のことが思い出される。
 一緒に過ごした時間は、今までで一番幸せだっただろう。
 束の間ではあるが、その幸せな日々をくれた土方には感謝しなければならない。
 落ち込んでいく思考を紛らわせる為に、は冷蔵庫の扉を開けた。
 が、何も入っていない。というか、イチゴ牛乳しか入っていない。
 それは毎度のことで、尚且つ、外へ出ると会ってしまうかもしれないと、買い物にも行けていない。
 だが、行かなければ、今日の夕飯がない。
 会って普通の会話ができるかわからないが、は万事屋を出た。



 自分は神の存在を認めていない。だが、もし神がいるとすれば、それは酷く性格の悪い者のようだ。

「あ、さんお久しぶりでさァ」

 巡回中の沖田に会った。そして、その隣には彼もいる。
 前のように接してくれる沖田に自分の都合で真選組を辞めてしまったことに罪悪感があった。

「久しぶり。今は仕事中?」
さんは買い物ですかィ? というか、よくここらで会いますねィ」
「そう? 意識したことないから」

 はふわりと微笑んだ。
 はいまだに、沖田の隣でいるだろう彼に視線が向けられない。
 沖田の隣に彼がいることは分かっている。だけど、そちらには視線は向けられない。

「今日は、真面目にお仕事してるのね」
「何言ってるんですかィ。俺ァいつも真面目ですぜィ」

 真選組を辞めてしまったことを、沖田は何も言ってこない。
 そろそろ戻らないと、とは去って行った。

「結局一回も目合わさなかったですねィ。アンタもさんも」

 の去って行った方向をみつつ、沖田は問いかける。
 だが、隣に居た土方は答えない。不思議に思い、視線を彼の方に向けてみれば、土方はが去った方を見つめていた。
 その表情はなんとも言えない表情で、見ているこちらの胸が痛むようなものだった。

「帰るぞ」

 何も言わず、ただそれだけを言って、土方は踵を返す。
 沖田はまだ、餓鬼だといわれても仕方のない年齢だ。だから、互いに想い会っているにもかかわらず、相手の幸せだけを願い身を引くという行動が理解できない。
 土方もも、互いに互いを想い会っているのは一目両全だ。だが、どちらも感情を相手にぶつけることなんてしない。
 お前は餓鬼だといわれても、二人の行動は沖田には理解できないし、理解したいとも思わない。
 互いに想い会っているのに、感情を二人ともが押し殺したところで、どちらも幸せにはならないだろうに。
 もう少し歳を取れば分かるようになるのだろうか、と沖田は考えながら、土方の後を付いていった。  


次へ 戻る

卯月 静 (08/09/06)