Edo Side Story【19】 昔馴染と情報攘夷志士、桂小太郎。 銀時と旧知の仲である彼は、エリザベスを連れ、万事屋でのんびりと茶を飲んでいた。 「おい、ヅラ、さっさと用済ませて帰れよ。オメーが重大な知らせがあるっつーから上げてやったんだぞ」 「ヅラじゃない、桂だ。銀時、少しくらい友人を労わってやろうという気持ちはないのか」 迷惑そうな銀時を気にせず、桂は茶を飲む。 飲みきった茶をテーブルに置くと、当初の目的を口にした。 「一週間後、高杉一派が動くという情報が入った。それと、高杉のやつは人を探しているらしい」 「人?」 「ああ、高杉の妹、だ。覚えてるだろう、銀時」 「まあ、忘れるわけはねーし……」 「は江戸に来ているらしい。高杉はを自分の手元に置くつもりだろう」 「がうんというとは思えねえけどな」 「それはわからんぞ、あれでも高杉は兄だからな。家族の下となれば話は別だろう」 「いや、言わない。は……」 「ヅラさん……その話本当?」 「ヅラじゃない、桂だと何度言った……ら……」 声と共に開かれた襖をみると、そこには、先ほどの話題に上った人物。 予想もしなかった人物の登場に、桂は思わず声を上げる。 「ッ?! 何故、ここに?!」 「ヅラさん。その情報、もっと詳しくは分からない?」 は真っ直ぐ桂を見る。 「…………一週間後、大江戸駅前の広場を爆破するらしい」 過激派である高杉の動きが気になり、桂が高杉に付けていた者からの報告だ。 「そう……」 「、まさか、行くつもりかっ!」 「兄さまの仲間になる気はないけど……、でも、兄さまを止めなきゃ」 兄を止めるためには江戸に来たのだ。記憶が戻るきっかけになったあの日以来、高杉の姿どころか、噂すら聞かない。 「いいのか? いきゃぁ、アイツに会うぞ、アイツらだって情報は掴んでるだろうしな」 今まで口を開かなかった銀時が、口を挟んだ。 「銀時、アイツとは誰のことだ?」 眉を顰める桂を無視し、銀時は眼差しをから外さない。 「…………あの人とは、もう、関係ないもの」 今にも泣きそうな困惑した笑顔では答え、そのまま部屋に戻って行った。 「おい、銀時、アイツとは誰だ?」 「真選組副長、土方十四郎だ」 「真選組だと?」 敵である真選組の名が出て、桂は顔を顰めた。 「それが、とどういう……」 「……がこっち来て、直ぐくらいに記憶を失ってな、その間真選組の世話になってた」 そこまで聞き、桂は嫌な予感がした。 「……その間に、よりにも寄っては真選組の鬼副長に惚れやがった。しかも、記憶が戻る前まであいつ等は恋人同士だったんだよ」 「なんだとっ!!」 攘夷志士である高杉の妹のと、その攘夷志士を取り締まる真選組の副長。その二人が元恋人同士。記憶があれば、が土方に惚れることはなかったかもしれない。だが、運命とは皮肉な物で、記憶がないため、は土方に惹かれた。 「それじゃ、は今……」 のことだ、きっと、今とてもツライ思いをしてるのだろう。 彼女が攘夷志士の妹でさえなければ、想いを押し殺す必要もないのに……。 知らなかったとはいえ、自分の持ってきた情報は彼女には聞かせるべきではなかったと、妹のような彼女の気持ちを思って、桂は複雑な表情を浮かべた。 「副長。高杉のヤツが、一週間後に動くと情報が」 「……分かった。ご苦労だったな、山崎。近藤さんには俺から報告しておく、休んでいいぞ」 土方は手入れをしていた刀に映る、自分の姿を見つめ覚悟を決めた。 自分は真選組の副長。惚れた女の兄といえど、その女に怨まれようとも、斬らねばいけない時は斬らねばいけない。 次へ 戻る 卯月 静 (08/09/09) |