Edo Side Story

【21】 敵と味方





 が目を開けて、最初に飛び込んできたのは、金髪の女性。

「武市センパイ、目覚めたみたいッスよ」

 金髪の女性は、後ろを振り返り、誰かを呼んだ。
 後ろには、帯刀した、男性が立っていた。

「そうですか。では、私は高杉様に報告してきましょうか」

 そういうと、その人は部屋を出て行った。

「あ、あの、ここは?」
「ここは、鬼兵隊のアジトッス」

 鬼兵隊、それは、の兄である高杉晋助が率いている攘夷志士の集まり。
 そうだ、自分は、兄の手を取った。土方は自分を止めてくれようとしていたが、それを無視して……。
 もう、今度こそ、あの人の傍にはいられない。あの人との繋がりを絶ったのは自分自身なのだから。

「兄さまの……」
「でも、晋助様に妹が居たなんて、私知らなかったッスよ。あ、私は来島また子ッス、様」
様?」

 様付けで呼ばれ、はキョトンとする。

「晋助様の妹なんですから、様付けするのは当然ッス!」

 拳を握り、力説する来島をみて、は兄がこの娘に慕われているのだと感じた。

「また子さんは、兄さまのことが本当に好きなんですね」
「あたり前ッスよ。晋助様以上に素晴らしい人なんて、この世にいませんっ!」

 羨ましい。こんなに真っ直ぐ好きな人のことを好きだと言えるのが。

様は好きな人居ないんッスか?」
「好きな人……」

 来島の質問に、は顔を暗し、首から下げていたリングを握り締める。

「……いたけど……フラレちゃった」
様をフルなんて、見る目無い男ッスね」
「……仕方ないわ。私は高杉晋助の妹だもの」

 自分が高杉の妹でなければ、土方は自分のことを好きでいてくれたのだろうか。今も彼の傍で笑っていられたのだろうか……。

、気分はどうだ?」
「兄さま……」

 武市を引き連れて、高杉が姿を現した。

「お前を弄んだ副長共々、俺がこの世界を壊してやるよ」

 高杉の言葉に、はやりきれない気持ちになる。
 彼はとんでもないことを口にしている。本当ならそれを止めなければならないし、止めるために江戸に来た。
 だが、その言葉とは裏腹に、高杉の声は酷く優しくて、自分の覚えている昔の高杉と何一つ変わっていないように感じた。




 真選組の屯所では、先の事件のことで持ちきりだった。

ちゃんが高杉の妹だったなんてなぁ……」
「しかも、高杉の方に付いたんだろ?」
「これから、先会ったら敵同士なのか……」
「俺やだぜ、さんに刀向けるなんて」
「でも、相手が誰にしろ、攘夷志士を捕まえなきゃならないだろ」

 が高杉の妹だということは、既に真選組中が知っていた。
 の記憶喪失は間違いなく本当だったし、彼女が間者などでもなく、テロを起すような人間でないことくらい、真選組の隊士達は分かっている。
 だが、彼女が高杉の手を取ったことで、が敵に回ってしまったことは事実。今度会えば、今までのように接することはできないし、場合によっては斬らねばならない。

「それでも、俺は嫌だな……」
「だったら、テメーが代わりに腹切るか」
「ふ、副長っ?!」

 振り返ると、鬼が立っていた。その視線はいつも以上に鋭い。にらまれただけで、動けなくなる。

「アイツを斬らなきゃいけねえー時になっても、テメー等にはさせねえから安心しろ」

 土方の言葉に、隊士達はホッとする。何だかんだ言っても、この男はの恋人だったのだ。捕まえなければならないとしても、斬るようなことはしないのだ。鬼といわれてはいるが、惚れた女に情けをかけるくらいの優しさはあるのだろう。
 を騙していたという話も聞いたが、それは単なる噂に過ぎないのだと、隊士達は安心していた。しかし、次の土方の言葉に、隊士達はやはり、鬼は鬼なのだと実感した。

「アイツを斬らなきゃならない時は、俺がやる」


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卯月 静 (08/09/23)