Edo Side Story【24】 辛さと幸せ「気が付いたか?」 「ヅラ……さん?」 が目を開けた先にいたのは、今度は、黒髪の男性。 「ヅラじゃない、桂だと言ってるだろう」 桂は、そう言って、に笑いかけた。 「どうして、ここに、ヅラさんが?」 「ここは、万事屋だ。高杉のヤツが、お前を連れてきたんだ。銀時、が気が付いたぞ」 「よぉ、家出娘。中々起きねえから、心配したぞ」 「銀ちゃん……」 「、高杉んトコで何があった」 銀時に言われて、思い出す。は高杉に刀を向けた。そして、高杉はを斬るのだと、これで自分の人生も終わりなのだと思っていた。 目を瞑ったに、ザクリという音が耳に響いたが、その後の痛みは来なかった。 ゆっくりと目を開けて、自分の体を見ても、どこからも血は出ていない。 不思議に思い、高杉を見れば、彼は悲しそうな顔をしていた。 「俺の妹、高杉は、この世にはもういない。俺のことは忘れて、好きに生きろ」 体を見回した時、頭が軽いことに気づいた。の足元には、黒髪が落ちている。ゆっくりと、髪に触れればの髪はかなり短くなっていた。 「……兄、さま……」 「すみません。様」 来島の声が聞こえたかと思うと、口に布を当てられ、そのまま意識を失った……。 「そうか……高杉のヤツ……」 話を聞き終わって、銀時はそれだけ呟くと何も言わなかった。 「銀時、俺は戻るぞ。のことはお前に任せる」 「おー、また何かあったら頼むわ」 桂が万事屋を出て行って、神楽も新八もいない中、銀時と二人だけだった。 「……土方さんは……」 「相変わらず、チンピラ警察やってる」 「そっか……」 「会いてーか?」 銀時の問いに、は首を横に振る。 「会いたいけど、会えないから。土方さんは職務の為に私に付き合ってただけだもの……。それを、私が勝手に勘違いしただけ……」 「つれーなら、地球から離れるか?」 「え?」 「ここにいても、江戸に住んでる限りあの野郎とは顔を合わすことになるだろ。それなら、いっそのこと坂本んとこでもいくか?」 地球を離れる。そんなこと考えたこともなかった。だが、ここにいれば嫌でも土方と会うことになり、その時に冷静でいられるかなんて分からない。 高杉の妹で、しかも、高杉の手を取った。土方が、自分のことを敵だという目で見られるのはきっと耐えられない。 これは逃げだとは分かっている、だけど……。 は、首を縦に降った。 土方は自室の机に向かっていた。だが、机には何の書類も残っていない。 気を使った隊士達が、土方の負担を減らそうとしてくれたお陰でいつも以上に仕事が少ないのだ。いつもこれくらいやってくれれば楽なのに、よりにも寄って、仕事に没頭して、忘れてしまいたいことがある時に限って仕事がない。 ただ、机に向かってタバコを吹かす。傍らに置いてある灰皿には吸殻が山を作っている。 がここで働いている時は、怒りながらも、こまめに灰皿を取り替えてくれていた。 だが、彼女はもういない。自分の傍どころか、もう二度と会えないのだ。それも自分の所為で。 こうやっていても、考えるのはのことばかり。 惚れた女が、この世からいなくなるのは、二人目だが、の場合は彼女の時とはまた違う。彼女の場合は病だった。 だが、は土方が殺したようなもの。自分と出会わなければ、自分が彼女を欲しなければ彼女が死ぬことはなかったかもしれない。 色恋を自らに禁じていたくせに、欲してしまった自分の罰なのかもしれない。 もう一度、もう一度彼女の笑顔が見たい。だけど、それは叶わない願いだ……。 「副長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」 山崎が、襖が壊れんばかりの勢いで部屋に入ってきた。 いつもなら怒鳴るところだが、怒鳴る気にもならない。 「もっと、静かにしろ」 「そんなこと言ってる場合じゃないですって!!! さんがっ!!」 と言う名前に、土方は反応した。 「さんが実は生きてたんですっ!!」 「……はっ?」 一瞬コイツは何を言ってるんだろうと思った。 「だから、さんは殺されてなんかいなかったんですってっ!!」 「だが、高杉の野郎は……」 「万事屋にいるのをこの目で見たんですから、間違いありませんっ!」 が死んだと聞き、銀時に頼んでいた依頼を取り消しに行こうと万事屋に向かった。すると、万事屋から桂が出てきた。のことを桂に頼んでたのだろうと、その場は見逃したのだが、中に入ろうとすると、聞き覚えのある声が聞こえた。 まさかと思い、玄関から入るのをやめ、屋根裏に忍びこんだ。すると、そこには間違いなく、がいた。 どういういきさつなのかは分からないが、が無事で、そして、銀時の下に戻ってきている。山崎はこれは直ぐに土方に伝えなければと思った。 しかし、暫く屋根裏にいて、次に聞こえてきたのは予想もしない言葉だった。 「坂本には頼んでおいたから、バカだけど、あいつは頼れるヤツだし、宇宙に行くなら、知ってるヤツの方が気が楽だろ」 「ありがとう、銀ちゃん」 「俺は、お前を妹だと思ってっからな」 「うん」 は小さめの旅行鞄を持っている。その様子と先ほどの会話。これは明らかに、江戸をでるのだ。しかも、宇宙と言っていた。 山崎は慌てて屋根裏から出て、屯所に戻った。 山崎が出て行った後の天井を銀時が見ていたことは、彼は知らない。 だが、土方は何も言わない。 「副長っ!! 今ならまだ間に合いますって。さんに会いにいきましょうっ!」 「どのツラ下げて会いに行くっていうんだ? 自分を利用した男になんざ、も会いたくねえだろうよ」 「さんは兄貴を殺してでもアンタに会いに行こうとしたってーのにですかィ」 「隊長……」 「総悟……」 いつの間にか部屋の入り口には沖田が立っていた。 「俺は、アンタに幸せになって貰いたくはねえ。出来れば一生死ぬまで、不幸でいて欲しいんでィ。でも、姉上には幸せになって欲しかった。それももう今では叶わない願いですけどねェ。さんは俺にとって姉みたいな存在だから、さんには幸せになって欲しいんでィ」 沖田は土方の胸倉を掴む。 「さんの素性を知ってて、さんの気持ちに応えたんだろっ!! 実の兄貴にも渡さねえって言ってたのはテメーだろっ!! だったら、中途半端な真似してんじゃねえよっ!!!」 土方は何も言わず、沖田の手を退け、部屋を出て行こうとする。 「おい、土方っ!!」 「…………散歩だ」 怒鳴る沖田と呆然とする山崎を残して、土方は屯所を出て行った。 次へ 戻る 卯月 静 (08/10/14) |