girasole

【05】





「ここ、どこ?」

 街で店を見回っていると、男性に声を掛けられた。英語だったため、観光客が道でも聞いてきたのかと、足を止めた。
 それがいけなかったのだ。男が英語で巻くし立てるものだから、は慌ててしまって、そうすると、腹部に痛みを感じた。そして、そのまま、後の記憶がなくなった。
 周りを見渡すと、十数人の女性がいる。
 そして、皆一様に、怯えたような顔をしている。
 達が容れられているところは、どうやら牢屋のようだ。

「どうです? 中々の上玉ぞろい。いい値で売れますよ」
「すっげぇ。一人くれー味見してもいいんじゃね」

 鉄格子の向こうから、数人の男がドヤドヤとやってきた。どいつもこいつも、下品な笑いをしている。しかも、自分達を品定めするかのように見る。はっきりいっていい気分はしない。それどころか、男達の視線にいやらしいものが含まれているのが分かり、背筋に寒気を感じた。

「大事な商品だ。むやみに傷つけんじゃねーぞ、なぁ」

 じろじろと見ている男達を諌めるように、声を掛ける男がいた。彼は他の連中よりも、少し年が上のようだから、彼が親玉かもしれない。





「どうだ、ロマーリオ。アジトは割れたか?」
「いや、まだだ」

 一向にアジトが分からない。キャバッローネの情報網はかなり大きく、集めている部下達は優秀だ。そろそろ分かってもいいころだとは思う。そして、分かりしだい、潰しに行く予定なのだ。
 いつまでも、キャバッローネのシマで好き勝手されちゃ溜まらない。その上、この街には今がいるのだ。彼女に及ぶ危険は出来るだけ、消し去りたい。

「ボス、失礼します」

 扉が開き、ディーノとロマーリオの視線がそちらへ集まる。扉の前には部下と、少年が立っていた。

「ディーノ兄ちゃん……」
「マルコ、どうした?」

 部下に連れてこられたのは、この街に住む少年。ディーノもよく知っていて、よく遊んでやったりもした。今でも街にいくと声を掛ける。
 そして、街に何か異変がある時は、すばやく対応できるようにと、屋敷に来ても通すようにはしていたのだが……。
 マルコが来たということは、何かあったのだろうか……。まだ何も聞いていないのに、ディーノは嫌な予感がした。

「姉ちゃんが……」
「……?」
姉ちゃんが、悪いやつに連れて行かれたんだっ!!」

 その言葉は、まるで冷水を浴びせられたようにディーノには感じられた。

「……今、なんて……」
「姉ちゃん一人で買い物してて……見かけない男に声掛けられて、そしたら、姉ちゃん倒れちゃって、そのまま連れて……」

 泣きそうになりながらも、必死にディーノに伝えようと、言葉を続ける。ディーノは、屈んでマルコ目線に合わせると、彼の頭を撫でた。そして、できるだけ、いつも通りに聞こえるように、声を掛ける。

「ありがとな、後は俺がなんとかすっから」

 マルコが出て行ったあと、ディーノはロマーリオに向き直った。

「ロマーリオ……アジトの割り出しを急げ」

 そこには、いつもの優しい顔のディーノは居らず、キャバッローネのボスとしてもディーノがいた。だが、付き合いの長いロマーリオは、彼が焦っているのが分かる。

「ボス、落ち着け。焦ったって、嬢ちゃんは戻ってこねーぜ」
「…………分かってるっ! 分かってるんだ……」

 キャバッローネのボスになったのに、自分はまだ女一人も守れないへなちょこだ。観光客が狙われていると分かった時に、護衛でもなんでも付ければよかった。もしくは、仕事を後回しにしても彼女の傍にいればよかった……。
 ディーノは自分の不甲斐なさに、拳を強く握る。

「ボス……」

 シンと静まり返る部屋に突然、電話のベルが響く。
 動かないディーノの代わりに、電話にはロマーリオが出た。

「ボス、朗報だ。アジトが分かったぜ」


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卯月 静 (09/02/18)