girasole
【08】
「ちゃん、今日もバイトなの?」
今朝、玄関で靴を履いていると、後ろから、奈々に声を掛けられた。
「いいえ、今日はバイトは休みですよ」
「あら、じゃあ、今日は皆とご飯一緒できるのね」
「はい、楽しみにしてますね。じゃあ、いってきます」
「行ってらっしゃい」
奈々は久しぶりに、皆がそろうのが嬉しいらしい。最近は沢田家の食卓が賑やかになった。
日本に戻ってから、はバイトの日数を増やした。急に増やしたことで、最初、奈々は世話になっていることを気にしているのだろうと思ったらしく、そんな風に思う必要はないと心配された。
しかも、海外に居る伯父にもその話が伝わったようで、国際電話で説教されてしまった。
生活費等々は別に心配はしていない。もちろんすべて世話になっているなら気にしただろうが、今までの生活費や、学費は親の遺産から出しているのだ。
今回のバイトの目的の為に、両親が残してくれた金を使うわけにはいかないと思った。今までだって、出来るだけ、使いたくなくて、最低限の物は、バイト代で賄っていた。そして、今回の目的はイタリアに再び行くためだ。
好きな男に会いに海外に行くのに、折角親が残してくれた金に手をつけるわけにはいかない。だが、そう簡単に貯まるわけもなく、イタリアに行く日はいつ来るのだろうかと思う。
「いつ行けるのかなぁ〜……」
再び行くと約束したが、それがいつになるかは分からない。加えていえば、彼は忙しいだろうから、こちらにくるのも中々出来ないに違いない。
メールや電話で話はする、でも会いたいと思うのは仕方がないだろう。彼のことだから、会いたいといえば、こちらに来てくれるかもしれない。でも、そうすると、只でさえ忙しいのに、さらに無理をさせてしまうことになる。それはいやだ。強がっているわけではないが、彼の負担になりたくはない。
そういえば、最近賑やかになったと思う。従弟の綱吉を、マフィアのボスに育てる為だと、イタリアからリボーンという赤ん坊が来た。それにその関係でか、綱吉の周りには人が集まっているようにも思える。
「そういや、ディーノもマフィアだよね」
ひょっとしたら、リボーンはディーノのことを知っているかもしれない。リボーンに聞いたことはないし、マフィアと言ってもいろいろあるだろうから、知らない可能性の方が高いが。
「っと、やばっ。遅刻するっ!」
考え事しながら歩いていたら、講義の開始時間が迫っていた。
「ただいまー……?」
家に帰ると、玄関に見慣れない靴があった。男物の靴。叔父が帰ってきたのか、とも思ったが、叔父はこんな靴は履かないだろう。
部屋に荷物を置いてこようとしたら、階段の下から声をかけられた。
「ちゃん。ご飯できてるから、荷物置いたらきてね」
「はーい」
荷物を置いて、駆け足で降りる。
「え?」
しかし、ドアを開け、食卓に着くより前に、は固まってしまった。それも無理はない。いるはずのない人がいる。
「な、なんで、ここにディーノがいるの……」
「よっ久しぶり」
ディーノは笑顔で、に手を振っている。
「、ディーノさんと知り合いだったの?」
綱吉は不思議そうに尋ねるが、は呆けたままで、動かない。
「ちゃん、早く座らないと皆がご飯食べられないわ」
奈々の言葉で、は我に返る。
見ると、ディーノはにこにこと自分の隣を示している。
訳が分からないまま、が席につくと、いつものように賑やかな食事の時間が始まる。
「ああ、ディーノ溢してる」
「あ、悪ぃ。普段ナイフとフォークで、箸使い慣れてなくて」
イタリアでの時のように、食事を溢すディーノの世話をしてると、綱吉を始め、他の面々はぽかんとした表情でを見ていた。
箸を使い慣れていないという、ディーノの弁解は皆の耳には届いていないようだ。
「あら、仲いいのねぇ」
ゆったりとした口調で、にこにこと笑顔で言う奈々の声で、は今、自分が食卓の場にいるのだと思い出す。
は、慌てて真っ赤になりながらディーノから離れた。
そして、針のむしろのような、この状況から逃げ出そうと、さっさとご飯を食べて、二階に駆け上がった。
下の階でなにやら一騒動あったようだが、は降りてもいけず、ずっと部屋に閉じこもっていた。
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卯月 静 (09/02/28)