girasole

【10】





 豪華な調度品の並ぶ部屋で、ディーノは書類の整理に追われていた。マフィアだからといって、毎日ドンパチやっているわけではない。
 だが、書類整理はどちらかといえば、苦手で、いい加減飽きてきた。

「なあ、ロマーリオ」
「日本に行くほどの暇はないぜ、ボス」

 名前を呼んだだけだが、優秀な右腕は、ディーノが何を言いたかったのかが分かったらしい。

「いいじゃねーか、少しくらい」
「ボス、分かってんだろ」

 少し食い下がってみるが、やはり駄目らしい。
 弟分に会いに行って、その時にに会えた。それ以来会ってない。イタリアと日本という超遠距離恋愛だから、仕方がないといえば仕方がない。
 それでも、会いたいものは会いたいのだ。欲を言えば、会いたいし、触れたいし、抱きしめたい。
 完全にやる気を失って、机に突っ伏してしまったディーノをロマーリオは見る。
 別に、女に現を抜かして、仕事を疎かにしてるわけではない。ディーノはちゃんと仕事をしてはいるのだ。ぶつぶつ文句を言いながらではあるが。
 文句を言いたくなるのも無理はない。ここの所忙しかった為に、との連絡も少なかった。

「今日の、午後三時」
「は?」

 ロマーリオの突然の言葉に、ディーノは不思議そうに顔を上げる。

「今日の午後三時に、イタリアに到着するから、迎えに行ってくれよ」
「迎えって……誰のだ?」
「行きゃ、分かる。客の出迎えもボスの仕事だろ」





 空港は絶えず人の行き来があった。ロビーではキャンセル待ちの人や、搭乗手続きを待っている人でごった返している。
 誰がここに来るのか分からないまま、ディーノは空港で待っていた。もちろん隣にロマーリオがいるが、彼は何故かニヤニヤしている。はっきり言って、気持ち悪い。

「なあ、ロマーリオ。誰が来るんだ?」

 ずっと尋ねているが、ロマーリオは一向に答えない。
 それが気に入らなくて、イライラする。

「ほら、来たぜ、ボス」

 ロマーリオに言われて、やる気もなく、視線をそちらに向ける。
 一瞬見間違いかと思った。
 会いたくてしょうがなかった愛しい人。
 迎えの人を探しているのか、彼女はキョロキョロと辺りを見回している。
 そして、ディーノ達を見つけると、彼女は笑顔で手を振ってこちらに向かってくる。
 ディーノは惚けたまま動けなかった。

「嬢ちゃん、よく来たな」
「お久しぶりです、ロマーリオさん」
「ほら、ボス。いつまで惚けてんだ、いくら嬢ちゃんが可愛いからってよ」
「ディーノ?」

 は、不思議そうに、ディーノの顔を覗き込む。

「本物?」
「ディーノ、くすぐったいっ」

 ディーノはの顔やら、唇やら、髪やらに触れまくる。くすぐったくて、はクスクスと笑っている。

「……会いたかった……」

 ディーノは思いっきりを抱きしめた。突然のことで、は目を丸くし、隣にいたロマーリオは笑いを堪えている。
 は、そっとディーノの背に腕を回した。


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卯月 静 (09/03/03)