girasole
【17】
の大人になる宣言から、数日が経った。
あの時から、は、「ディーノお兄ちゃん」とは呼ばずに、「ディーノ」と呼ぶようになった。
それと同時に、ディーノは彼女の雰囲気が少し大人のものになったように感じていた。元々体は大人の女性のものだから、記憶が子供な彼女の振る舞いで、ドキッとすることはあった。しかし、最近はそれだけじゃなく、仕草が大人の、記憶が退行する前のに近くて、ドキッとすることが多い。いや、ドキッどころの話ではない。雰囲気が大人のものに近くなり、ようは、色気を感じるのだ。
多分、彼女の今の記憶は彼女の従弟くらいの年齢なのだろう。父親が殺された時の記憶は未だないようで、彼女の中で、父親は事故死したことになっている。
今日は、久々に外に出ている。と出会ったバールでお茶をしているのだ。思い出しても、思い出さなくてもどちらでもいいと、最近は思い始めていたのだが、これが、何かの切っ掛けになるかもしれないと思ってのことだ。そう都合よくは行かないだろうから、これは、単にとデートできる口実に他ならない。
「ディーノ、さっきから、ぼーっとしてばっかり、私といても楽しくないの?」
「え? い、いや、そんなことはねーよ!」
考え込んでいると、どうやら、の機嫌を損ねたようだ。
「そりゃ、私みたいな、お子様よりも、綺麗なお姉様達との方がいいよね」
が向ける視線の先を、ディーノが追ってみると、若い女性の二人組がいた。
どうやら、考え事をしてたディーノの視線は彼女達の方へ向いていたらしい。
「だって、十分可愛いぜ」
誤解されてはいけないと、ディーノは笑顔で言った。
「ほら、そうやって、ディーノはすぐ、子供扱いする」
ディーノとしては、心の底からのことを可愛いと思っての言葉だが、彼女にはそうは通じなかったようだ。
可愛いと言ったことが、子供扱いしたように聞こえてしまったらしい。
「してねえって」
「いいもん。そのうち、私だって、色気のある美女に成長するんだから」
口を尖らせて、子供っぽいこと
「お手をどうぞ、Mia principessa.」(俺のお姫様)
そろそろ店を出ようと、席を立ち、手を差し出すと、はしばらくジッと見て動きが止まっていた。だが、ディーノが笑顔を崩さずにいると、その手を取る。
きっと、また子供扱いをしたとでも思っているのだろう。彼女の表情は、如何にも不機嫌だと言っている。
「跳ね馬だな」
「何の用だ」
店を出ると、数人の男達に囲まれた。男達の出で立ちはどいつも黒スーツにサングラスだ。そして、同業者だからこそ分かる匂い。どう友好的に見ても、一般人には見えない。
ディーノはとっさに、を背後に庇う。はディーノの服をギュッと握っていた。
「アンタがいると目障りなんだ。折角商売が上手くいってたってのに、潰してくれて。その礼でもしようと思ってな」
どうやら、男達は、この間キャバッローネが潰したファミリーの関係者らしい。あのファミリーが復讐しにくるとは思えない。復讐などできないくらい、叩き潰したはずだ。そうなると、彼らはその取り引き相手といったところか。
「そりゃあ、態々悪ぃな」
ディーノが鞭を構えると、男達の銃口が一声にディーノに向く。
が心配だが、今振り返るわけにはいかない。振り返ったが最後、蜂の巣だろう。
後ろを振り向かず、に声をかける。
「いいか、ここから、動くなよ。俺が守ってやるから」
「…………ダメ……」
「?」
「ダメだよ。父さまと同じになっちゃう……」
は、行かせまいと、ギュゥとディーノの背に抱きついている。これでは、戦えない。だが、戦えなければ、の身も危険だ。
「大丈夫だ。な?」
「そうやって、父さまも死んじゃったんだもん……」
幸か不幸か、偶然にも、と父親が襲われたのと同じ状況になっている。これが引き金で、記憶が戻るかもしれない。だが、きっと、それは、小さい頃の記憶も一緒に違いない。
どうしようか、と考えていたが、視線の端に、ロマーリオの姿を捉えた。
ディーノの唇は、弧を描く。
「相手を選んで行動を起すことだな」
「ハッ! この状況で、随分と強気だな。女の前だからって、カッコつけることはないぜ、それとも女差し出して、逃げるか」
昔のディーノなら、しただろう。恐くて、やりたくないからと。だが、今は違う、自分もファミリーも、そして、大切な人を守る力を持っている。
「逃げるわけねーだろ。それよりも、テメェ等こそ、今すぐやめろ。死にたくなけりゃな」
ディーノが不敵に笑い、そういうと同時に、男達の後頭部に、冷たい物があたる。
「うちのファミリーは優秀だろ?」
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卯月 静 (09/04/07)