JOKER #3 −話を聞き流すことも時には重要− がこのマンションに来て一年経った。 一人で食事を取るのは寂しいだろうという鷹士に半分無理やり、連れてこられ、毎回一緒に食事を取ることにも慣れた。 としてはヒトミと食事をとるのはいいのだが、鷹士ととるといろいろ五月蝿そうでイヤだったのだが、目の前で叫ばれては折れるしかなかった。 「ちゃん、どうかしたの?」 不思議そうにヒトミがに尋ねる。 どうやら、知らぬ間に笑っていたようだ。 「いや、一年前にここに来たときのことを思い出してたんだ」 「あー……。あの時はお兄ちゃんがすごかったもんね……」 苦笑しつつが答えると、ヒトミも一年前のことを思い出したのか、笑っている。 一年前。このマンションで数年ぶりにヒトミと鷹士に会った。 鷹士がこのマンションの管理をしているため、の両親からの連絡は鷹士のみにいっていた。 鷹士は昔のを思い描きそのまま成長した姿だと思っていたようだったが、目の前に立つを見て、叫んだ。それはもう、マンション中に響き渡るように。 「驚くに決まってるだろ!! あの可愛いが!! いや、今でも十分可愛いが!!」 また、始まった……。 鷹士が語り始め、ヒトミとは二人揃って溜息をつく。 こうなった鷹士の語りは長いのだ。 実の妹であるヒトミに対してよりかわ幾分少ないといえど、妹のように思っているに関しても相当過保護というか、シスコン(この場合にそう呼ぶのかは分からないが)なのである。 「そのがいくら可愛くだったといっても、まるで男の子のようになってたから、兄ちゃんは、兄ちゃんはっ!!!」 鷹士は今にも涙を流しそうな勢いで(というかもしかしたら流しているのかもしれないが)語っている。 達は慣れたもので、その話を右から左へと聞き流す。 「でも、私もびっくりしたよ。ちゃんが可愛い男の子になってるから」 「それ……まるで、私が性転換したみたいじゃん」 「でも、昔はすっごい女の子って感じだったのに、印象変わったらお兄ちゃんじゃなくても驚くよ」 そう言われたが、その言葉はまるまる、目の前の少女に返したい。 過去、美少女コンテストを総なめにし、子供モデルのオファーが後を絶たなかった少女は今は恰幅のいい姿になっている。 かく言う、も昔はいかにも女の子といったいでたちで、ヒトミと二人でお人形さんみたいだと、お姫様みたいだといわれていた。 それが、今ではまるで『可愛い男の子』だ。 加えて、の言葉遣いや、行動がそれに拍車をかける。 一人称こそ「私」と言っているが、「僕」と言っていたら思いっきり男の子だろう。 「どんなちゃんでも、ちゃんには変わりないから、今のちゃんも私は好きだよ」 「ありがと、ヒトミ。ヒトミも昔のままで変わらずにいてくれて嬉しいよ」 ヒトミの目にも、にっこり笑顔で返すは本当に可愛い男の子のように見えた。 次へ 戻る 卯月 静 |