JOKER #5 −考え事をしながら歩くのはやめましょう−



 仲の良い友人と同じクラスになることはそうとう低い確率だ。
 それが、5人ともとなれば、誰かが図ったとしか思えない。
 が、世の中には不思議なのことは多く起こる、それに、仲の良い友人と同じクラスという嬉しいことならば、さして気にすることもない。

「できれば百合香とは同じクラスになりたくなかったな……」

 ヒトミは先ほどのことを思い出し、誰にも気付かれないように呟く。
 つい数分前にヒトミは百合香とぶつかり、ありがたいことに嫌味まで貰ってしまった。
 東条百合香は生粋のお嬢様で、男子生徒の憧れの的だ。
 いつも回りには取り巻きがいる。

「でも、東条さんもヒトミのことあんな風に言うことないのにねぇ」

 ヒトミの友人の一人である柴崎優は、いつものほわーんとした口調でいう。だが、声は少し不機嫌そうな様子が混じっている。
 大好きな友人を貶されれば、怒りたくなるのも道理だろう。

「だよね、もっと言い方ってものがあると思うけどね」

 隣にいた、同じくヒトミの友人である荻野梨恵も同意する。
 透は口にこそ出さなかったが、酷いこというなぁ。とは思っていた。

「私は東条さんのこと嫌いじゃねーけど?」
「「「「え?」」」」

 の一言に全員の声が重なった。

「いっそう清清しいだろ、あそこまでハッキリ言えるってのは」

 に笑顔で言われ、他の者は。

「確かに、それはそうだけど……」

 としか返せなかった。




「ヒトミ?」
「え? あ、何? ちゃん」
「前、前」

 苦笑しながら前方を指差す、。ヒトミの目の前には電柱。
 帰り道、に呼ばれ初めて自分が考え事をしながら歩いていることにヒトミは気付いた。
 がヒトミの顔を覗き込みながら呼ばなければ、電柱と衝突するところだっただろう。

「あ……。ありがとう……」
「今日、東条さんに言われたことでも、考えてた?」
「ん……やっぱ、気にした方がいいのかなって」

 今までもヒトミのことをいろいろ言うやつは大勢いた。でも、どれも陰でこそこそ言うだけでヒトミの耳に直接入ってくることは無かったし、家に帰れば両親や兄はヒトミの体形のことなど一切言わない。
 あの兄、鷹士に到っては、「可愛い」としか、言わないのだから、気にする機会など何も無かった。

「ヒトミが今のままが嫌で、変わりたいと思うなら」
「変わりたいと思うなら……か。……少し考えてみるね」

 ははっきりとは言わなかった。ヒトミ自身が「気にしろ」と言われたからと言って、気にするかどうかは分からない。
 少なくとも言えることは、ヒトミの中で何かが変わりつつある、ということだけだった。




 はヒトミの体形はさほど気にしていなかった。どんな姿であろうと、昔、自分が会ったヒトミと何一つ変わっていなかったし、そのことはこの一年で十分実感した。
 でも、今日百合香に言われて、ヒトミがそのことを気にし始めていることは感じ取れたし、この間新しく入居してきた奴らに言われたことも原因の一つだということも分かっていた。

 だからこそ、は「ダイエットしろ」とも「しなくていい」とも言わなかった。
 ヒトミのことだから、決意すれば、きっとやり遂げるだろう。
 ヒトミが変わりたいと願うなら、自分はその彼女の手伝いをするだけのことだ。


 昔と変わってないということはとても居心地のいいものだけど、いつまでも同じではいけない。
 変わらなければいけないこともある。


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卯月 静