JOKER #11 −廊下を走るのはやめましょう−



 教室の前の廊下。
 教室に入ろうとするの背後から、タタタタッ! という音が聞こえてきた。

 普通の人であれば、何事かと後ろを振り向くのだろうが、にとってはいつものこと。
 音が近づき、地を蹴る音がしたとたん、後ろも見ずに右に避けた。

「先輩、避けるなんてヒドイじゃん!!」

 に突撃しようとしていた者の正体は、一個下の深水颯太。
 彼は運動神経も良いために、ドアにぶつかるといったことは起こらなかった。
 しかし、に避けられたことで、不満そうだ。

「毎回、毎回、思いっきり飛びついてこようとするお前が悪い」
「いいじゃん、一回くらいさー。いつも先輩避けるんだもん」
「はいはい、そのうちな。で、何か私に用だったんだろ?」
「あ、そうだ! 先輩、今日一緒に帰ろうよ!」

 颯太はにっこりと笑顔でを誘う。
 ファンの女の子達がみたら、その場で倒れるほどの満面の笑み。
 しかも、その言葉にはが断るはずがない! といった様子が含まれている。

「ああ、別にいいけど」

 は苦笑しながらも、颯太の申し出を受ける。
 とりあえず、教室に戻ろうと達は教室に戻ろうとした。
 しかし、その時に、は女生徒が一人、コチラを熱心に見ているのに気付いた。

 少女は見たところ、一年生のようで、手には今日家庭科の授業ででも作ったのかラッピングされた紙袋をもっていた。

「あ、あのぉ……。颯太君……」
「何?」

 勇気を振り絞り、颯太に話かけたが、当の颯太はそっけない。
 仲の良い友人には愛想がいいが、ファンの子には意外と冷たい。

「用がないなら、もう行くよ」
「え……ぁ、あの!」
「はいはい、颯太。そんなに冷たくしない。彼女だって頑張ってるんだから、ね?」

 今にも女生徒の話を聞かずに無視してしまう颯太をなだめる。

「君もさ、折角ここまで頑張ってるんだから、もう一歩勇気ださないとさ」

 今度は女生徒に向かって、少し微笑みながらいう。
 の言葉に再び勇気を貰ったのか、意を決し、颯太に紙袋を差し出した。

「コ、コレ! 食べてくださいっ! …………他の人と一緒にでもいいからっ!」
「…………ありがと……」

 差し出されたお菓子を受け取った。
 颯太が受け取ったところをみると、女生徒は「ありがとう」と呟きそのまま、駆け去っていった。

「先輩ってすごいよね」
「何が?」

 帰る準備をしているの前の席に颯太は座り、を眺めている。

「だって、先輩ってファンの女の子達にも優しいじゃん。僕なんであそこまで優しくできるか分かんないよ」
「私の場合は颯太とかの場合とちがって、恋愛感情じゃなく、憧れって方が強いってわかってるからね。女の子の場合は問題ないから」
「そういうもんかなぁ?」
「そーゆーもんだよ。そのうち颯太にも分かるって」

 笑いながら、は颯太の頭をポンポンと高く。
 その反応に、颯太は未だ腑に落ちないらしい表情をしている。


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卯月 静