Act.1 対面






 当方司令部に響き渡る銃声。
 だが、べつに事件が起こっているわけではない。
 これはいつものことで、これが東方司令部の日常なのだ。

 銃を向けているのは、リザ・ホークアイ中尉。
 向けられているのは、ロイ・マスタング大佐。
 ロイはこの東方司令部の司令官。そんな彼がなぜ部下であるリザに銃を向けられているかというと……。

「大佐……、ここにある書類は全部今日締め切りの物です。サボるなどと考えずに、今日中に終わらせて下さいね」
「ああ……」

 ロイは仕事をサボっているところをリザに見つかり、今のような現状に至る。

「きちんと終わらせてくださいね。今日はセントラルから異動してくる新しい軍医が挨拶に来るんですから。あまりだらしないところは……」
「新しい軍医? この時期にか? 私は聞いていないぞ」

 確かにこの時期の異動は珍しい。時期としては、もう少し後でもよさそうものなのだが。
 リザは大きなため息をついた。

「大佐、確か一週間前に異動についての書類はお渡ししたはずですが」

 そういわれて、ロイは机の上の書類の山を見る。きっとこの中にその書類があるのだろう。
 だが、見つけ出すことは非常に困難だ。

「君のことだから、書類の複製かなにか持っているのだろう?」

 リザはあきれながらもロイに書類の複写を渡す。
 ロイのことだから、きっとこうなると予想しての行動だ。

。階級は少佐か……。写真はないんだな」
「あの中の書類と一緒に添付してあるはずです」

 と、ロイの机の書類の山を指す。

「いつごろ来る予定だ?」
「今ハボック少尉に迎えに行ってもらってますから、もうそろそろ着くはずです」

 リザが答え終わると同時にドアをノックする音がした。

「ハボックっス。少佐をお連れしました」

 ハボックに連れられ、一人の女性が部屋に入る。

「本日付で東方司令部に配属になりました、少佐であります」

 深い蒼い瞳で、黒くて長い髪は一つに結ってある。
 彼女が新しい東方司令部の軍医だ。女性の軍医というのも珍しい。

「ロイ・マスタングだ。後で誰かに施設の案内をさせよう、わからないことは何でも聞くといい」

 はまっすぐにロイを見ている。
 その瞳にどこか見覚えがあるような気がした。

「…………少佐。どこかであったことはないか?」

 ロイは唐突にに尋ねる。

「……いえ。初めてお会いするはずですが」

 は一瞬間があったが、その後に否定の答えを返す。

「そうか。変なことを聞いて悪かった。少尉、彼女を医務室まで案内してくれ」

 はハボックについて部屋をでる。

 あの瞳を自分はどこかで見たはずだ。
 だが、彼女はあったことはないといった。
 自分の気のせいではないことは確信がある。
 しかし、あの瞳が誰の物であったのかは思い出せない。
 彼女を誰かと重ねてしまっているのか、それとも彼女がロイと会ったことがないというのが嘘なのか。




「よっ! 大佐!」

 が東部にきて一週間後。
 執務室にノックもなしに、金髪の少年が入ってきた。
 その少年見たとたん、ロイは嫌そーな顔をする。

「何しに来たんだ鋼の」

 「鋼の」と呼ばれた少年の後ろには鎧を着た人物がいる。
 金髪の少年の名はエドワード・エルリック。
 最年少国家錬金術師で、後ろに居るのは弟のアルフォンス。
 弟のほうがでかいじゃないかというツッコミは禁句だ。

「いやぁ〜。最近情報がなかなか集まらなくてさー。大佐なら何か情報持ってっかなぁ〜って」
「新しい情報はこれといってない。だからもう帰れ」

 とエド達に追い払うようなしぐさをする。

「久しぶりにきたんだから茶くらいだせよ」

 ロイはエドの言葉に無視をし、珍しく書類を片付けている。

「そういえば、医務室にすごい行列ができてたんですけどけど、なにかあったんですか?」

 今日二人が東方司令部に来たとき。医務室の前を通ると行列ができていた。
 何か事件でもあってけが人が多く出たのかと思ったのだが、並んでいる人はなぜか顔は患者の顔ではなく、何かを楽しみにしているようだった。

「ああ、それは……」

 バタンッ!!

 ロイが話そうとするとドアが壊れるのでは無いかというほど勢いよく開いた。

「マスタング大佐。あの方たちをどうにかして下さいませんか? 仕事にならないのですが……」

 入ってきたのは軍服の上から白衣をきただ。
 その顔は怒っているようにも、困っているようにも見える。

 あの方たち、とが言っているのは、先ほどエド達がみた医務室の行列のことだ。

 新しい軍医が女性になったせいか、軍の男共は怪我も病気もしていないのに医務室にいき、に会おうとしていた。
 本当の患者で無い限りは冷たくあしらっていたのだが、その人数が多すぎて収集がつかない。
 そのうえ本当の患者にまで影響が出て治療ができないのだ。

「わかった、なんとかしよう」
「お願いします。では」
少佐。今夜は空いているかな?」

 部屋を出ようとしたを引きとめ、デートに誘う。

「申し訳ありませんが、今夜も予定が入ってますので」

 はやんわりと断り部屋を出て行く。

「へ〜。大佐でもふられる事があるんだ」

 エドは感心したように言う。

「初めて、少佐に会ったときも大佐彼女を口説いてたぜ」

 いつの間にか部屋に入ってきていたハボックが話しに混じる。

「しかも、『どこかで会ったことはないか?』って聞いてたんだぞ」

 ありきたりすぎだろ。とハボックは笑いながら言う。

「本当にどこかであったことがあるんだ。それは間違いないはずなんだが……」
「まだ、言ってるんすか」

 ハボックはあきれている。
 この間からロイは毎回そういっている。
 そうとうのことが気になっているようだ。

「大佐の昔の女性に似てるとかじゃないんすか?」

 ロイのことだから付き合った女性は星の数ほど居るだろう。
 その中の一人が彼女に似ていて、でもロイは付き合った彼女たちのことは忘れているから。ってことだろうとそこにいた全員が思っていた。


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卯月 静