Act.2 作戦






「あの、マスタング大佐」
「なにかな?」
「ここで何をしてらっしゃるのですか?」
「何って、君に会いにきたんだが」

 困惑しながら尋ねたにロイは笑顔で答える。
 しかも、その笑顔は女性を口説くとき限定のものだ。

「仕事があるのではないのですか?」
「仕事は優秀な部下達がやってくれてるさ」

 ついこの間まで、医務室には怪我も病気もしていないのに人が来るせいで仕事にならなかった。
 そこで、はロイに何とかして欲しいと頼みに行った。
 そのおかげで余計な者は来なくなりスムーズに仕事が出来るようになった。
 なったのだが……。

「それに、休憩も必要だろう?」

 今度はロイが医務室に入り浸るようになった。
 ロイは今まで医務室に来ていた人らよりたちが悪い。
 ロイを止めれる人物は少ない。

少佐」

 ロイは話しかけるが、は反応しない。

「本当に私と会ったことはないのかね?」

 ロイの質問に一瞬の手が止まる。

「会った覚えはないですが」

 はロイの方を見ずに答える。

「君みたいな綺麗な女性を私が忘れるはずないのだがな」

 どうしても思い出せない。彼女とどこかであったことは間違いない。
 それも、昔の彼女とか、街で声をかけた女性とかそういうのとは違う。
 どこで会ったんだったか……。

 だが、ロイはそこまで考えて途中で考えることを止めた。
 今考えていてもしょうがない、そのうち何かのきっかけで思い出すかもしれない。

「まあいい。少佐。今夜こそは食事に付き合って……」

 食事に誘おうとしたが、はロイを無視し、受話器を取りダイヤルを回す。

少佐……どこにかけているのだね?」

 ロイはとてもいやな予感がした。

です。マスタング大佐はここに居るので迎えに来てもらえますか。……ええ、医務室です。はい。お願いします」

 受話器を置き、はロイに向き直る。
 そして、笑顔で言った。
 の笑顔が見れてラッキーなどと思う余裕も無く、から告げられたのは死刑宣告も同然の言葉だった。

「もうすぐ、ホークアイ中尉が向かえにこられますので」

 が掛けていた相手はリザだった。
 ロイを止める事のできる数少ない人間の一人。

 ロイが医務室に来るせいで仕事がなかなかできない。そう思ってはいたが大佐という地位のロイを誰なら止めれるのだろうと考えていた。
 考えた結果リザに相談することにしたのだ。

 リザはロイの副官。ならば、どうすればロイが医務室に入り浸るのをやめてくれるのか知っているかもしれないと思ったのだ。
 その結果、リザはロイが医務室にきたら電話をして欲しいとのこと。

 そうすればリザもサボっているロイを探す手間が省けるし、もすぐに仕事に戻れる。
 そう言われ、早速リザに電話をしたのだ。
 電話してみるとやはりロイは仕事をサボって此処に来ていたようだ。
 リザが来る。聞いたとたんロイは青くなる。
 そして、医務室から急いででようとする。

「どこに行くおつもりですか?」

 医務室のドアを開けるとそこには金髪の美人な自分の副官が立っていた。その手には拳銃が握られている。

「どこに行くおつもりですか?」
「い、いや。今から執務室に帰ろうかと、思ってな……」

 ロイは冷や汗を流しながら、答える。

「そうですか、では早くお戻りください」

 リザが来たのでは観念するしかない。

少佐。大佐の居場所を知らせて頂き、ありがとうございます」

 リザはロイを引っ張って医務室から出て行った。




 仕事が終わり、は帰る準備をしていた。
 机に広がっていたカルテをまとめ、棚に収める。

「もう帰るのかね?」

 ドアの方から聞きなれた声が聞こえた。

「マスタング大佐……」
「昼は中尉がきたから誘えなかったからな。少佐。今夜は暇かい?」
「私より他の方を誘ったらどうです?」
「私は君と食事に行きたいんだが……今日のところはやめておくよ」

 ロイにしてはあっさりと引き下がる。
 いつもならもっとしつこいくらい誘ってくるのに。
「では、少佐。また明日」

 絶対何かを企んでいる。
 ロイが部屋をでるのを見ながら、はそう感じた。


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卯月 静