Act.3 予想






「ハボック少尉」

 廊下を歩いていると不意に呼び止められた。
 呼び止めたのはホークアイ中尉。

「大佐見なかった?」

 リザのその言葉にハボックはまたか……。とため息をつく。
 自分達の上司であるロイ・マスタング大佐は東方司令部一のサボり魔だ。
 ハボック自身もそんなに仕事熱心ではないが、リザを怒らせてまでサボろうとは思わない。

「また、医務室にでも行ってるんじゃないっすか?」

 最近ロイは新しくきた軍医にご執心のようだ。
 新しい軍医は珍しく女性で、なかなかの美人だ。
 始めの頃は軍のかなりの男達が彼女を人目みようと医務室に列を作っていた。
 女性の少ない軍で新しい軍医が女医だというのならそりゃあ一目みたいと思うだろう。
 がここにきて、医務室まで案内したのはハボックなのだが。彼女を案内した後さんざんまわりにうらやましがられ、いろいろ聞かれた。
 もっとも、さほど話してないため何も答えることはできなかったが。

「一応少佐に聞いてみたんだけど、今日は医務室には行ってないみたいなのよ」
「じゃあ、俺は知らないッス」
「そう、大佐を見つけたら執務室に戻るようにいって」
「了解ッス」

 こりゃあ、今日も残業だな……。
 そう思いながら歩いていると、ロイを見つけた。
 どこかで隠れていたのかそれとも今までそこに居てたまたま見つからなかったのか。
 ロイは外をながめていた。

「何やってんすか?さっき中尉が探してましたよ」

 ハボックに声を掛けられロイは振り向く。

「自主休憩だ」

 つまりはサボり。
 何を見てるのかとハボックはロイの視線の先を追う。
 視線の先にはがいた。
 どうやら、薬に必要な薬草をとっているらしかった。

「大佐……ストーカーっすよ。コレじゃあ」

 ハボックの言葉にロイは固まる。

「どこがストーカーだというんだ」
「休憩っつーか、サボるたびに少佐のとこに行って、少佐を見つけてはじっと眺めて。ってのはストーカーの初期症状じゃないっすか」
「断じて違う!」

 ロイは否定する。
 ストーカーだろーがなんだろーが、ハボックにとってはロイが一人の女性に執着することは珍しいと思う。
 目の前にいるこの上官はモテる上に女性には優しい。
 だが、女性全てに優しいのであって特定の女性に、ということはなかった。

「さて、そろそろ仕事に戻るか」

 ロイが自分から戻るなんて珍しい。

「大佐、執務室に戻るんじゃないんすか? そっちは逆っすよ?」

 まさか行き方を忘れたわけではないだろうが、明らかに逆の方向に行くロイを止める。
 仕事に戻るといいながらやっぱりサボるのかと思っていたのだが帰ってきた答えは違っていた。

「ああ、少佐に会ってから戻ろうと思ってな」

 そういって、ロイはさっさと歩いて医務室まで来てしまった。
 別にハボックまでついていく必要は無かったのだが、なんとなくロイについてきてしまった。

「やあ、少佐」

 はロイをにたとたん、「またか」というような表情をした上に、すぐ電話に向かってどこかに掛けた。
 会話の内容まではハボックに分からなかったが、ところどころ聞こえてくる単語で中尉あたりに掛けているのが分かった。
 ロイはやはりを食事に誘おうとしている。
 相手だと連戦連敗のようだ。

 二人のやり取りを見ていたハボックは廊下の向こうからリザがこっちに来ているのに気付いた。

「大佐。いい加減仕事に戻ってもらいますよ」

 リザそういうやいなや、ロイを引きずって連れて行った。
 医務室にはハボックとの二人だけ。

「大佐が迷惑掛けてすいません」

 ハボックはとりあえず謝っておく。

「ハボック少尉が謝らなくってもいいから。それに、もうすぐ大佐も大人しくなると思うし」
「大人しく……なるっすかね?少佐、大分大佐に気に入られてるみたいッスけど」

 ハボックの言葉には少し笑いながら答える。

「マスタング大佐は自分になびかない私が珍しいだけだと思うけど?そのうち飽きるわ」

 とさらりと答える。
 ハボックは仕事があるからと医務室を後にした。
 はすぐ飽きるだろうと言ってたが、ハボックにはそうは思えなかった。
 付き合いが長いせいかロイの性格はおおよそ分かる。

「大佐が自分に落ちないからってあそこまで執着するとは思えねーしなあ……」

 廊下にはハボック以外誰もおらず、その言葉に反応する物はいなかった。
 ハボックの予想が当たるかどうかはもう少し先のこと。


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卯月 静