Act.4 実力






 いつもの通りサボろうとして、リザに捕まったロイは、リザの監視の下仕事をしていた。

「大佐、いいかげんサボろうとするのはやめてくださいね」
「やる気がでない……。中尉、医務室に行ってもいいか?頭が痛いんだ」

 と頭を押さえる。
 もちろん仮病で、もちろんリザにはお見通しだ。

少佐は今日非番ですよ」
「なにぃ!……休みなのか……」

 今日は休みだった。
 東方司令部に着たばかりで、今日は休暇をとって生活用品を買っているところだろう。

「はぁ……」

 ロイはがいないと聞くとなお仕事をやる気力が減った。
 もっとも、もともとやる気などというものはほとんどなかったのだが。
 バタンッ!!とドアが壊れるほどの音を立てて開いた。

「大佐!!指名手配中の犯人が街に!!」

 その瞬間ロイは先ほどの様子が嘘のように表情が真剣なものにかわる。

「詳しく話せ」




 事件を起こしたのは指名手配中の殺人犯。
 どうやって、東方まで来たのかは知らないが中央からここまで、逃げてきたようだ。
 犯人の容姿などは東方まで回っていた。
 その犯人を偶然巡回中の軍人が見つけた。

「そして、そのまま銃撃戦になった、ということか」

 ロイたちは現場に到着していた。
 今犯人は人質をとっている。人質を取られているため下手に手が出せない。
 犯人の動きもないが、こっちも動けない。

「負傷者はどこにいるの?」

 不意に背後から聞きなれた声が聞こえた。

少佐!今日は非番じゃなかったのか?」
「もちろん休暇中でしたよ。買い物の途中で事件のことを聞いたので。それに、怪我人もいるようですし医者の私が来ないわけには行かないでしょう?」

 は軍服では無く私服。
 休暇中なのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

「で、負傷者はどこに?」
「こちらです」

 は負傷者のいるところに行くためその場を離れた。

少佐に会う機会を作ってくれたことには犯人に感謝だな」
「大佐、不謹慎な発言はお控えください」

 ロイがつぶやくとリザがすかさずいさめる。
 確かに先ほどの発言はまるで事件が起きるのを喜んでいるみたいだ。
 喜んでいるのは事件が起きたことではなく、に会えたことなのだが。

「さて、どうするか……」

 人質がいなければロイの焔で一発なのだが、人質を巻き込んで焔を出すわけにはいかない。
 建物にでも立てこもられていたのでは難しかっただろうが、犯人は建物には入らず、ただ人質をとって軍と睨みあっている。

「何が望みだ?」

 ロイは犯人に向かって言う。
 もちろん、ロイに犯人の要求を聞いてやる気など少しもない。ただの時間稼ぎだ。

「要求? 分かっってんだろう? 俺が無事に逃げ切ることだ」
「その要求は呑めんな。貴様を逃がすわけにはいかないからな」
「軍人がえらそうにっ。お前だって俺と同じ人殺しじゃねぇーか」

 その言葉を聞いてロイは眉間のしわを険しくする。

「人殺しか……否定はしない。が、貴様と一緒にされては困るな」

 そういいながら、ロイは構える。

「へぇ〜焔の錬金術師は人質ごと俺を燃やすのか」

 犯人はにやにや笑っている。
 人質がいる限りこっちは手が出せず、自分は安全だと思っているのだろう。

「ほう。私のことを知ってるのか。こんな雑魚が知っているとは、私が昇進するのも近いかもな」

 ロイは自信満々の顔を崩さない。

 犯人は自分に危害を加えることが出来ないと知ってはいるが、ロイの自信満々の顔が崩れず、焦った様子がないのが気に食わなかった。

「さすがは、軍人。凶悪犯を捕まえる為なら、市民一人くらいの犠牲は構わないってか?」
「安心しろ。焔に包まれるのは貴様だけだ」
「じゃあ、やってみろよ。これだけ引っ付いていたらいくらお前でも無理だろう?」

 犯人は人質をさらに自分の方に引き寄せ密着させる。
 人質と犯人の間には隙間がなくなる。

「ほら、やってみろよっ!」

 犯人は自信満々で言い放つ。

「では、遠慮なくやらせてもらおう」

 パチンッ!!

 ドォォン!!

 ロイが指を鳴らすと焔は犯人の方に迫る。しかし、犯人の横に焔は命中し砂埃が起こる。

「はんっ!国家連金術師もたいしたことねえな。やっぱり、人質がいるとできねぇーか。今度はこっちの番だ。まずはあんたに死んでもらおうか」

 銃口をロイに向ける。

「チェックメイトだ」

 ロイがそう言ったのと同時に犯人は引き金を引いた。

 ズドンッ!

「痛っ!なんだとっ!」

 銃声が2つ聞こえその一つが犯人の拳銃を弾き飛ばした。
 それに伴い、犯人の人質を捕まえていた腕が緩む。

「ハボックッ!!」

 その隙を逃さず、ハボックは人質を犯人から引き離し、犯人を押さえつける。

「ぐぁっ!」
「残念だったな。私の部下には射撃の名手がいてね」

 犯人のを撃ったのは、東方司令部一の射撃の腕をもつリザ。
 近くの建物から犯人を狙い、タイミングを見ていたのだ。

「さて、約束どおり貴様だけ焔に包まれてもらおうか」

 パチンッ。

 ロイの焔が、一瞬ではあるが犯人を包む。
 焔に包まれた犯人は小さくうめき気絶した。




「大佐ッ!!何するんスかッ!!俺、犯人押さえつけてたんスよっ!巻き込まれるじゃないッスかッ!!」
「いいじゃないか、巻き込まれなかったのだから。それに、お前ならうまく避けれると思ってたからな」

 ハボックの抗議に笑顔でロイは答える。
 しかし、その答えをハボックは信じていなかった。
 絶対嘘だ。大佐は俺のことを気にせず発火したに違いない。

 心の中では思うが声には出さない。
 折角ロイの焔から逃れたのに、余り言っているとホントに燃やされかねないのだ。

「俺コイツ連れて行きますんで、大佐は傷の手当でもして貰ってください」

 ハボックは犯人を引きずっていく。

「マスタング大佐」
少佐……」
「大丈夫ですか?ハボック少尉から大佐が怪我をしてると聞いたんですけど」
「いや、別に怪我は……くッ!」
「やっぱり……」

 ハボックの言った通りロイは、肩に怪我をしていた。
 犯人の銃弾はロイに命中はしなかったものの、肩を掠っていったようだ。
 掠ったといっても少し深く傷が出来ている。

「人質に怪我はなかったのか?」

 はロイの手当てをする。

「ええ。大佐のおかげで無傷でした」
「そうか、よかった」

 ロイはホッとした顔をする。

「いくら、犯人を捕まえる為とはいえ、無茶しすぎです……」
「部下を信用しているからな」
「幸い軽いからいいものの、もっと大きな怪我を負ったらどうするんです!」

 それを聞いてロイは笑顔になる。

「ありがとう。心配してくれて」
「べっ、別に心配なんてっ!私は、医者としてッ」

 は赤くなって叫ぶ。

「ああ。分かってるよ」

 ロイはの反応を見て笑っている。
 そんなロイにまた抗議しようと思ったが、どうせ無駄だと思い無視して手当てを続ける。
 しかし、の顔は少し赤くて、ロイはそんな彼女を笑顔で見ていた。


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卯月 静