Act.9 捕縛






「中尉。少佐はいつ戻ってくるんだ?」
「確か今日だったはずですが?……て、どこに行くおつもりですか?」

 が中央に行ってから、今日帰ってくるのは知っていた。
 それで、ロイは駅までを迎えに行こうとした。
 しかし、例によって例のごとく、ロイはリザに止められた。

少佐を迎えに……」
「大人しく仕事して下さい」
「……わかった」

 ロイはしぶしぶ仕事に戻る。
 リザに銃口を向けられていては、どうしようもない。

「でも……遅いですね、少佐」

 先程までロイが思っていたことをリザは口にする。
 確かに遅い。まだ午後になったばかりだが、 は昨夜中央を出発したとヒューズから連絡があった。
 いくら中央から東方まで時間がかかるといっても、もう駅についてもいい頃のはずだ。

「ただ、列車が遅れているだけか、それとも」

 それとも事件に巻き込まれたか。
 ロイとしては前者であって欲しい。

「大佐っ! 失礼しますッ!」

 慌てて入ってきたのはヒュリーで、手には一枚の紙を持っていた。

「私宛てか…………中尉、今すぐ動ける人員を集めろ」

 紙に目を通したロイは中尉に紙を渡しながら指示を出す。

「了解しました」

 リザは瞬時に紙の内容を読み、次の行動へと出る。
 ロイの机には先程の紙だけが残され、ロイと数人の者は現場に向かった。

ロイ・マスタング殿

以下の要求を受けてもらうために、女性を一人預かっている。
貴殿の恋人であろう女性だ。名は「
彼女に危害を加えるつもりはないが、場合によってやむ終えない場合もあるため、すぐに以下の場所に来られることを望む。

要求:投獄中の仲間の解放
場所:駅近郊の第三倉庫




「はぁ……」

 は大きなため息をつく。
 まさか、反軍部の団体に捕まるとは思っていなかった。
 手は後ろで縛られていて動けない。
 は自分が助けた女の子のことが気になった。
 あのまま無事でいるといいのにと思う。

 最初は小さな女の子が人質になっていた。
 とても怯えていたし、あのままでは耐えられそうもないと判断し、は自ら人質になると言った。
 つまりは捕まったというよりは捕まりに行ったという方が正しいかもしれない。

 そのことは別にいいのだが、問題なのは……。

「クックック。もうすぐ愛しい大佐様が来てくれるぜ。まあ、あんたを見捨てなかったら、の話だがなぁ」

 この団の頭であろう男がに向かって言う。
 なぜかこいつらはのことをロイ・マスタングの恋人だと思っているらしい。
 が軍人だとバレテいないのはいいのだが、ロイの恋人だと思われると後々面倒なことになりそうだ。

「マ、マスタングさんはきっと来てくれるわ」

 とりあえず、怯えたロイの恋人のふりをしておく。
 どこをどう間違って、自分をロイの恋人だと思ったのかは気になった。
 確かに、ロイは上司だから私服で会っても親しげに話しているように見えるだろうし、自身東方に着たばかりで、顔を知られていないということもあるのだろうけど。

「面倒なことにならないといいなぁ……」

 は男が出て行って誰もいなくなった倉庫の天井を仰ぎながら呟く。
 きっとこのの呟きは天には届いていないだろうと思いながら。


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卯月 静