Act.11 迷走






「あれ? 大佐はまたサボリ?」

 この間の事件のけが人についての資料をロイに渡そうと、はロイの執務室に行った。
 しかし、そこに居たのはロイではなく、ホークアイ中尉だけだった。

「今日は大佐は非番なんです」
「休み……?」

 今日はロイは休みだった。
 一応他のものは仕事があるし、いくらロイがいないといってもロイが最終的に目をとうさないといけない書類がなくなるわけではない。
 ほんとうなら、執務室は閉めておくべきなのだろうが、何かと執務室まで、運ばないといけない書類も多い。そのため、開けてるらしい。

「大佐への書類ならそこの机に置いておけば大丈夫ですよ」

 リザにそう言われ、は書類を置いて医務室に戻る。
 そして、なんともなしに自分の手を見る。
 この間の事件で怪我をしていたがそれももう綺麗に治っていた。
 もちろん傷跡も残らないような軽いかすり傷だったからすぐ治るのは当たり前だが。
 不意にロイが手のひらに口付けたことを思いだす。

「なんで、思い出しちゃうかなぁ〜?」

 きっと今の自分の顔は赤いだろう。
 ロイはどうして、あれほど自分に興味を持つのだろう。
 軍の大佐で、顔も良いし、女性には優しい。
 自分でなくとももっと他にロイに似合う人が居るはずだし、ロイが口説けばほとんどの女性は拒むことはないだろう。
 事実ハボック達から聞くのにはロイは頻繁に女性とデートしていたようだし、その女性もかなりの頻度で違う女性だったようだ。

 そう考えるとますます、自分に興味を抱くロイが分からない。
 でも、もっと分からないのは自身だった。
 昨日も恥ずかしいとは思ったが嫌だと思ったわけではない。
 もちろん上官としてロイのことは尊敬に値すると思ってはいるし、好感も持ってはいる。
 しかし、自分が彼のことを好きかと言われれば……、分からない。

「もう時間か……」

 とりあえず、今日は帰ることにする。
 既に就労時間は過ぎている。




「よければ、食事ご一緒しませんか」

 と、帰り際にホークアイ中尉のお誘いがあったので、喜んで受けることにした。

「ホークアイ中尉いつも大変よね」

 今日も大佐がいなかったし。とは聞く。

「そうでもないですよ。いつもは大佐を探さないといけませんけど、今日は始めからいないと分かっていますから」

 むしろ、今日の方が楽だ。とホークアイは苦笑する。
 確かにリザの言うとおりだ。
 いつもなら、「ロイを探す」という仕事をするため、余計に他の仕事に支障がでてしまう。
 そう考えていて、は医務室で考え込んでいたことをリザに聞いてみようかと思った。
 長年ロイの側近をしているリザであれば、きっとロイのことはかなり分かるだろう。

「あの……ホークアイ中尉」
「何でしょう?」
「マスタング大佐って、どうしてあんなに私を構いたがるんだろう?」
「え?」

 の言葉にリザは少しばかり驚く。
 からそのような話題を振ってくることなど今までなかったのに。

「大佐は少佐に会ったことがあるとおっしゃっていましたが?」

 これはロイがいつも言っていることだ。
 確かに自身に心当たりがないわけではない。

「でも、大佐が特定の女性を気にかけるというのも珍しいですから、ひょっとしたら……」

 結局リザははっきりとは言わなかった。
 そして、結局の悩みも解消されず。そのまま、リザと食事に行った。
 きっとそう簡単には解決しないだろう。ゆっくりいけばいいか。とその時は思っていた。
 店を出た後、ロイを見つけてしまうまでは。

「マスタング大佐?」
「中尉……と少佐?!」

 思わず声を掛けてしまい、その後リザにしては珍しく失敗したと思った。
 声を掛けたことは別段問題はないのだが、ロイは一人ではなかった。
 ロイの隣には綺麗な女性がいた。

「お綺麗な方ですね。大佐の恋人ですか?」

 に笑顔で問われ、ロイは正直頭を抱えた。
 よりによって、に見られるとは……。

「ああ、すみません、デートのお邪魔でしたね。では私はこれで失礼しますので。また明日司令部で」

 はお辞儀をすると、踵をかえし歩いていく。
 リザもため息をつき、ロイに呆れたような一瞥を向けをおっていった。

「まいったな……」

 ロイは思わず呟く。

「追わなくてよかったんですの? 今なら弁解も」

 隣にいた女性が促すが、ロイはそれを笑顔で断る。

「今追って行っては、貴方が困るでしょう?彼女のことなら大丈夫ですから」

 きっと、何とかなるはずだ。
 そう、思いながら女性を連れ、夜の闇に消えていった。


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卯月 静