捜査 1東方司令部の執務室。そこで、大佐であるロイ・マスタングは新聞を読んでいた。 いつもであれば、ロイのこのような姿を見ることはない。執務室でロイの姿を見ても、たいがいサボって、副官であるリザ・ホークアイ中尉に叱られているか、部下を困らせている姿であろう。 サボり魔な人物が上官だと下のものは苦労する。だが、ロイの部下たちは、ロイのことを信頼してはいる。一応……。 それは、彼が国家錬金術師であり、『焔』の二つ名を与えられているためなのか、それとも、天性の彼の性格から来るものなのか……。 「大佐、珍しいっすね。大人しく仕事に励んでいるなんて、ってなんだ新聞読んでたんすか……」 ロイに話しかけてきたのは、ハボック少尉。彼は部下たちからは信頼は熱いのだが、その話し方のせいか、上司受けは悪い。 しかし、ロイはそんなハボックの話し方にさほど気にしている様子はない。 「仕事しないと、また中尉に怒られるんじゃないっすか?」 「新聞を読んで世の中で起きてることを知るのも仕事のうちだ」 確かにそうだが、いつもサボりまくっているロイが言っても、只の言い訳にしか聞こえないのは何故だろう……、とハボックは思う。 「それより、また、出たらしいぞ」 「また……っすか……」 ロイのことばを聞いてハボックはあからさまに嫌そうな顔をする。 「いい加減にして欲しいものだな」 「大佐、ひょっとして、その封筒の山って……」 と、ハボックはロイの机の横に束ねてある封筒の束を指差す。 「お偉方は、よっぽど暇らしい。丁寧に手書きで送ってくれているよ」 と封筒の中に入っていた、便箋をピラピラと見せる。 その内容はどれも同じようなことしか書いていない。 どれも、今、イーストシティーで起こっている、先程ロイとハボックが言っていた事件のことについて、さっさと解決しろ。というものだ。 その事件とは、最近起こり始めたもので、最初は、一組のカップルが被害にあったことから始まった。 深夜、その二人が歩いていると、いきなり女性の方が切りつけられた。 当初軍は只の通り魔の犯行だと思っていたのだが、この事件が2件、3件と増え、仕舞には、1ヶ月10件も起こってしまった。 そして、全てに共通することは、狙われているのは、全て女性で、その隣に男性がいても決して男性の方は何も被害にあわないのである。 最初は、デート中のカップルばかりを狙っていたのだが、最近では家に帰る為に分かれた後女性のみになったところを狙うと言う犯行が多くなっている。 これが、市民に限ったことであれば、上官らがわざわざご丁寧に手書きの手紙を送ってくることはないだろう。 しかし、最近、軍の上層部に苦情を言えるほどの力を持った金持ちも狙われ始め、そのために、ネチネチと上層部は厭味を言ってくるようになった。 「さて、どうするかな。私だっていい加減、上層部の小言を聞くのは嫌なのだがな……」 とロイはため息をつく。 コンコンッ。 「失礼します」 ノックの後入って来たのは、金髪の美人。ロイの副官であり、お目付け役のホークアイ中尉だ。 「また、大佐宛に手紙です」 と手には大量の手紙を持っていた。 間違いなく、先程話題になっていた上層部からの苦情の手紙であろう。 ロイはその手紙を受け取り、そして机の隅の方に置く。 「ホークアイ中尉、ハボック少尉」 「はい」 「何っスか?」 「何かいい案はないか?」 「いい案……っすか? ……」 ロイに言われて、二人はしばし考える。 「あっ!それじゃあ、おとり捜査ってのはどーです?」 「おとり捜査か…………よし、それで行こう!」 少しの間何かを考えていたが、すぐにロイはすぐに決定した。 ハボックはその時のロイの表情でロイが何を思って自分の案に賛成したかが分かり、やっぱり提案しない方が良かったかな、と提案した本人でありながら思ってしまった。 NEXT 戻る 卯月 静 |