捜査 3




「やあハボック」
「げっ、大佐」

 ロイは偶然会ったかのように、声をかける。

「隣の女性は彼女か。初めまして。お嬢さん、お名前は?」

 ロイはリザに向かっていつものように、女性に声をかけるのと同じように接する。
 それを横で見ていたハボックは、本当の彼女とデートしてるときじゃなくて良かった。と心のそこから思った。

「初めまして、マスタングさん。私はエリザベスです。ジャンから話は聞いてますわ。」

 リザはにっこりとほほえんで答える。
 リザがハボックのことを「ジャン」と呼んだことにロイは少し不機嫌になった。
 恋人同士の振りをしているのだから、別に不思議ではないが、腹が立つものは腹が立つ。

 (本当なら、私が中尉に「ロイ」と呼ばれていたかもしれないのに……)

 とやっぱり思ってしまったりする。

「私のことをご存知とは、光栄です。この後、貴女さえ良ければお食事でも?」
「大佐、なに人の彼女を食事に誘ってんすか……。俺、今デートなんスよ」

 デートと言っても捜査の為だし、彼女でもないが、一応恋人同士の設定なのだから、ここで大佐に連れて行かれては面目が立たない。そう思いハボックはロイに抗議する。

「ああ、そうだハボック。デート中悪いが、至急司令部に戻ってくれ。もうすぐ中尉も帰ってくるだろう」
「マっ、マジっスか?! ………………了解っス」

 ハボックは落ち込んでいる。ような振りをする。
 「デートの中止」つまりは「捜査の中止」だ。

「っつーわけで、ごめん」

 ハボックはリザに向かって謝る。

「仕方ないわ。仕事だものね。私のことは気にしないで」

 と、リザはいう。

「家まで「私が家までお送りしましょう」

 ハボックは「家まで送る」と言おうとしてロイに遮られた。

「大佐、いいっすよ。俺が送りますから」
「いや、彼女は私が送ろう。最近物騒だからな。恋人同士でない方が安全だろう」

 確かに、恋人同士なら狙われるかもしれないが、むしろ出てきてくれた方がいい。
 それに、ロイと一緒の方がいろんな意味で危険だ。もっとも、リザが相手ではその心配はないと思うが。

「分かりました。大佐、人の彼女に手ぇ出さないで下さいよっ!」

 と言い残して、しぶしぶハボックは帰って行く。
 帰るといっても、近くにいる司令部のメンバーと合流するだけだが。




「さて、エリザベスさん。家までお送りしますよ」
「マスタングさんは仕事しなくてもかまわないんですか?」
「ええ、今は視察中ですので、貴女をお送りするくらい大丈夫ですよ」
「でも、早く帰らないと厳しい副官さんに怒られるんじゃありません?」
「彼女は優しいですから、分かってくれますよ」

 お互い笑顔で、会話しているが、影から見ているハボックたちは怖かった。言葉は違うのにいつもの大佐と中尉と変わらない。

「そう、じゃあ、お願いしますわ」
「ええ、喜んで」

 ロイは本当に喜んでいた。
 何しろ恋人役ではないとはいえ、リザと隣で並んで歩けるのだから。傍から見ればひょっとすると恋人同士に見えるかもしれない。

「大佐の思っていることが手に取るようにわかる……」

ハボックはロイとリザを見ながら、呟く。


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卯月 静