「此処は?」
元親が目を開けるとそこには、見慣れない天井があった。
「お目覚めになったのですね」
「アンタは?」
「お初にお目にかかります。と申します。数日前浜で倒れていた貴方を見つけてここまでお連れしました」
「ってーことはアンタに助けられたって訳か。迷惑かけたな」
声をかけられて体を起す。
少年を助けて海に落ちたあと、波に飲まれて元親はそこから意識がなくなったのだ。
そして、どうやら、目の前の女性に助けられたらしい。
女性は巫女のようで、巫女装束を着ている。
「まだ、もう少しお休みになっておいた方がよろしいですよ。元親様」
自分の名を知っていたに少しばかり警戒する。
「それほど警戒をなさらなくても大丈夫ですよ」
「何で俺の名を知っている?」
「自分の領主の顔と名前くらいは存じております」
警戒するな、といわれても、自分のいる場所も分からず、更に、元親は今本調子ではない。
警戒していても無理はない。しかし、の「自分の領主」という言葉で、ここは四国のどこかだと分かる。
「ここは、四国ですので、御安心下さい」
「そうか……」
「お食事をお持ちしましたが、お召し上がりになりますか?」
は持ってきていた膳を、元親の側に置く。
膳の中には粥がや汁といった物がある。気を失っていた元親の為にと、が作ったのだろう。
「態々、すまねえ。それと、悪いが筆と紙を持って来てくれないか」
「ええ。直ぐにお持ちします」
少し部屋を離れたあと、は筆と紙を持ってきた。
元親はとりあえず自分が無事だということを知らせようと、部下に文を書くことにしたのだ。
部下が向かえに来るまで、元親はの家で世話になることになった。
ここは神社のようで、はそこの巫女をやっているのだ。
「海の神を奉っているのか」
「はい。ですので、よく、漁師の方やその家族の方々がお祈りにやってきます」
元親自身は神を信じているわけではないが、自分が海に落ち、それを見つけたのが海の神を奉るこの神社の巫女であるなら、少しばかり神というものを信じてみようかという気になる。
もちろん、元親の部下にも信心深いヤツはいて、海に出る前には神社に祈りに行ってるやつもいる。
海は何があるかはわからないから、そういうものにすがりたくもなる。
そして、気になるのは自分の部下達のことだ。
嵐には慣れているだろうし、元親が居なくて対処のできなくなるようなやわな野郎達ではない。
それでも、気にはなる。
「大丈夫ですよ。部下の方達は無事陸に着いてますから」
自分の心を読んだようなの言葉に、元親は驚く。
「顔に出てたか?」
「ええ」
照れたように尋ねる元親に、は少し笑って答えた。
自分のことを鬼と言う、この体格のいい男が意外に可愛い反応をするのだと思い、何だか可笑しかった。
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卯月 静 (07/03/05)