討たれたっ!
元親はこれで終ったと思った。このまま自分が死んでしまえばきっとはコイツ等に好き勝手されるんだろう。とか、大口叩いてこの様か、とかだけでもどうにか逃がすことはできないか、とかこれだけ頭が働いているから即死ではないだろうからは助けられそうだ。といったことが頭を駆け巡った。
しかし、元親の体に痛みはない。血も流れておらず、何も変わらない。
ヒュッ……トスッ!
「ぐっ?!」
視線を男に向けると、男の手には矢が刺さっていた。
男の足元には銃が落ちており、その銃にも矢が刺さっている。
どうやら誰かが放った矢のお陰で弾丸の軌道が逸れ、元親を貫くことはなかったらしい。
「もう一発食らいますか?」
元親が振り向くと、そこには弓矢を構えたの姿。
は矢を添え、ギリッと弓を引く。
矢先は男の胸を狙っている。
「女には何も出来ないとおっしゃいましたか……。そうですね。私は元親様のように腕力がありませんから、貴方を蹴り飛ばすなんてことはできません。ですが……」
ギリッと、更に弓を引く。
「このまま手を放せば、いくら何も出来ない女が放った矢といえど、どうなるかはお分かりですよね」
矢の先を男に向けたまま、淡々と述べる。
決して男から目を逸らさず、真っ直ぐ見据えている。
その姿は今まで見た中で一番巫女らしかった。
服装云々ではなく、ある種の神々しさを帯びていたのだ。
そのために、の手にある矢は「破魔の矢」そのものの様な錯覚までしてくる。
「は手を放す必要はねぇ。俺が冥土に送ってやらぁ」
武器に使われた者は武器をなくすと忽ち弱くなる。
この男も例外ではなく、全ての手をなくして、もう抵抗もせず、ひたすら命乞いをしている。
しかし、こいつをこのまま生かしておいても害しかない、その上、相手は元親を殺し四国を乗っ取ろうとしたのだ。
この男の言った「彼」と言うのが気にはなるが、それは直ぐに判明するはずだ。
四国を狙い、尚且つ人を駒に使い策を練ってくるヤツなんて、元親は一人しか知らない。
そして、元親は碇槍を振り上げ、力の限り振り落とした…………。
「ありがとうな。助かったぜ」
「いいえ。あそこで元親様が負けてしまえば、コチラも困りますから」
男を倒せばあとは楽だった。大半は先の勝負で倒れているし、残りも殆どが戦意を失い逃げていった。
のお陰で助かりはしたが、つくづく自分は助けられてばかりだと情けなくなってくる。
その上が弓を使えたから良かったものの、何も抵抗する力を持っていなければあの場はどうなっていたか分からない。
自身はなにも気にした様子はないが、元親としては、もっと自分のカッコイイ姿を見せたかったと残念に思う。
西海の鬼が聞いて呆れる……。
「まだ落ち込んでるのですか?」
元気のない元親に、は声をかける。
落ち込んでいるというよりも、今の自分は自己嫌悪でいっぱいなのだ。
「私は元親様は居てくれたから冷静で居られたのですよ? 必ず元親様であれば大丈夫だと、そう信じていたからこそです。今言えば、一人で行くのはやはり不安だったんです。ですから、元親様が鬼退治をして下さると聞いて一番嬉しかったのは私です」
が本当に嬉しそうに、安心しきった顔で笑うものだから、元親の中にあったモヤモヤした嫌悪感は飛んでいった。
それの代わりというわけではないが、トクンッと元親の心臓が軽く跳ねたような感覚が起きた。
部下達から信頼されていると感じた時とはまた違った気持ち。
「元親様?」
「何でもねぇ……」
「そうですか。ではそろそろ村へ戻りましょうか」
「……ああ……」
村へ向かうまでの間、ずっとあの感覚が何なのか考えてみたが、結局なんの結論も出なかった。
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卯月 静 (07/09/18)