神社に着くと、そこに一組の男女が立っていた。
二人は元親達の姿を見とめると、ほっとしたようで、娘の方は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「様……あのっ……」
「ただいま」
娘は何かをに言いたげだったが、中々言葉が出てこない。
彼女に対して、は一言声をかけた。
その言葉に泣きそうな顔がさらに泣きそうになる。というか、既に瞳に涙が溜まり、ツーッと流れている。
「無事帰って来たのに『お帰り』の言葉は無し?」
「おかっ……えり……な……さいっ!」
遂には泣き出し、それでも「お帰り」と返す。だが、泣いているせいで、言葉ははっきりとは出ない。
彼女が泣き出したのが、悲しみではなく、嬉しさと知っているは、その言葉を聞き、微笑みながら、そっと抱きしめる。
それは母親が幼子を慰める時にするそれだった。
「わたっ、わたしっ……様にっ……」
「今はしゃべらなくて良いから、ゆっくり深呼吸して、落ち着いて。」
娘が落ち着いたところを見計らい、4人は部屋へ移動した。
「……と言うわけで、元親様が退治して下さったから、心配することはないわ」
「元親様、ありがとうございますっ!」
「おう、気にするな、俺が勝手にやったことだ」
先ほどの男女二人はからの話を聞き、元親に対して頭を深く下げた。
そこまで、有りがたがられるようなことはしていない。鬼退治を言い出したのも、人助けのためというよりも、があの場へ花嫁姿で行くのが気に食わなかった、という酷く利己的な物だ。
しかも、結局そのに助けられての鬼退治になった。
「元親様だけでなく、様にも本当に感謝してます。本当はいくら様からの計画の一つだとはいえ、逃げ出したことを後悔してたんです……」
「……ちょっと待て。計画ってなんのことだ、そりゃぁ」
今の言葉だと、この娘が花嫁だったことになる。それは別にさして問題ではない。
彼女が姿を眩ませたことで、が行くことになり、元親が花嫁の格好をする羽目になったのだが、それも仕方が無い。
が、この娘、今何と言った? 計画のうちだと言わなかったか。
「鬼退治をするのに、一人で行く必要があったんです。この子が居てはきっと気になって倒すどころじゃありませんから」
曰く、最初から自分が花嫁として行く予定だったらしい。
しかし、向こうは花嫁とその護衛――それも女という指定――をということだったから、が花嫁になっても、護衛になっても、もう一人も行くことになる。
先の戦闘で、の弓の腕前が素晴らしいものだとは分かったから、戦闘について何も問題はないだろう。
が、それは自分の身を守り、その上で倒すのであればの話だ。
戦闘の出来ない、まして、自分の身すら守れない娘を連れて、その娘を守りながらでは退治どころでなく、娘共々共倒れになるのが落ちだ。
ならば、武術に自身のある者を、ということだが、生憎ここにそんな娘はいない。
そこで、急遽花嫁が逃げ出し、代わりにが行くことになった。急だった為に、代理は容易できてない。
といったことで通す予定だったらしい。そのために、花嫁は姿を隠し、逃げ出したと言うことにした。
このことは花嫁としか知らないことだった。
元親が名乗りをあげたことで、当初の予定より、更に成功率のあがった計画になったという点はにとって幸運だったのだ。
「でも、が鬼を退治する必要はねぇだろ。成功したからいいものの、失敗すりゃ、は犠牲になってたんだぜ」
元親の助力もあって成功したが、一人で成功していたかどうか。
村人はが行くことに反対しないのはなぜだ。それほど自分が可愛いというのだろうか。
「所詮は余所者、と言うことでしょう。私はこの村で生まれた者ではありませんから」
そう言うの表情はどこか硬い。娘とその横に座っている男(というよりも若者か)も同情を含んだ視線を向けている。
「さて、無事終ったことですし、貴方達も早く帰るといいわ」
の一言で、二人はその場を去った。娘は始終御礼をいい、は呆れながらも笑っていた。
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卯月 静 (07/09/20)