夕餉が終った後、元親は思い切って尋ねた。
「さっきの……余所者ってどういうことだ?」
「……そのままの意味ですよ。ここで生まれたのではないと、前に言いませんでしたか」
確かに聞いた。
養父に世話になったとも。
なら、村人には? この村に思い入れはないと言っていた。
村人がなら犠牲になってもいいと思うとは、それほど村人との仲は良くないのだろうか。
「人は……自分とは違った力を持つものに『おそれ』を抱くものです。その力の種類が何であろうと、それは変わりません」
その「おそれ」が「恐れ」になるか「畏れ」になるかで周りの反応は違う。
「畏れ」であれば、尊敬されることもあるが、「恐れ」は恐怖以外の何者でもない。
の場合は「恐れ」だったのだろうか……。
「それを受け入れるのは中々出来ないことのようですから」
他人事のように言ってのけるが、は「恐れ」た方でなく、「恐れ」られた方なのだろう。
「の力って何なんだ?」
その言葉にの瞳が揺れる。
きっと、言おうか、言うまいか迷っているのだろう。
言ってしまって、村人と同じ反応をされてしまえば……、でも、元親であれば、そんなことは……と。
「…………どうして、元親様が海岸に倒れていることに気付いたと思いますか? 何故元親様が再び此処にくることが分かったと思いますか?」
確かに、元親が海岸に倒れていたのを見つけたのはだった。しかし、回復し、散歩しているときにあの浜へ行ってみたが、人が頻繁に通るようなところではない。
むしろ、誰も通らない。
漁をするようなところでもないなら尚更だ。
しかし、は元親を見つけた。
そして、知らせもしていないのに、ここに来ることを知り、出迎えてくれていた。
「私は海で起こった出来事が分かるんです」
「それはどういう意味だ?」
「あまりに広範囲のところまでは分かりませんが、瀬戸の海であれば、海上で起こったことで分からないことはありません。何となくですが、感じることができるんです」
だから、元親が海に落ちたことも分かったのだとは言う。
「ここに向かっていることも、航海している船の感じで分かりました」
あれだけ活気に溢れた船はそうはない。
「今は何となくですが、幼い頃はもっと強く感じとることが出来ました」
幼い頃は今よりも力が強かった。海で起こっていることの大半が頭の中に流れ込んでくる。
その力が異常だと思っていなかった幼いは、「海で誰かが溺れてる」やら「今日漁に行けば魚がいっぱい獲れる」やらと言っていた。
最初は子供の戯言程度にしか思っていなかった大人達もあまりに当たるものだから、次第に気味悪がっていった。
気味悪がるくせに、海でなにかするときはに聞く。そして、当たると気味悪く思うのだ。今思えばなんて勝手なのだろうか。
「両親はこれ以上ここで育てることができないと、今の神社に預けられました。神社の巫女でもしていれば、この力も格好がつくと思ったんでしょう。本音としては厄介払いをしたかっただけだとも思いますけど」
何の表情も変えず淡々と話すを見て、元親の方が心が痛くなった。
冷静に話しているようで、その瞳は悲しみが映っている。
今の話の流れだと、は両親に捨てられたということになる。
そして、きっと村人はをそれほど受け入れなかったのだろう。彼女の養父であるここの神主以外は。
元親は我知らず、を抱き寄せていた。
は予想外だったからか、それとも違うのか分からないが、何の抵抗もしない。
僅かに目を大きく開いたが、それは元親には見えない。
「よく、がんばったな……」
抱き寄せたまま、の頭を優しく撫でる。
は元親の胸に顔を埋め、ぎゅっと元親の着物を握る。
にとって元親のその声と言葉はあまりにも優しく、の心を癒すのには十分だった。
暫くの間どちらも何も言わず、抱き合ったままだった。
その間、元親はの頭を優しく撫でていた。
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卯月 静 (07/09/22)