天気は晴天。風は良好。清々しいまでの航海日和。
「よーし、野郎共、気合入れていくぜ!」
元親が声を上げれば、部下達から一つの乱れもない返事が戻ってくる。
「了解ッス、アニキー!!」
この船には活気が満ちている。
その上に誰も彼も幸せそうだ。
その要因は、今元親の隣にいる人物に他ならない。
「もう少ししたら、魚の穴場だから、晩ご飯になるくらいの魚を期待してますからね」
「任して下さい! 折角アネゴが教えてくれてんすから、無駄にはしません!」
「今日もアネゴの晩飯期待してますからねー!!」
がよくつれる場所を教えると、明るく返事が持ってくる。
しかも、長宗我部の者達はのことを「アネゴ」と呼んでいる。
最初呼ばれた時は、驚きはしたものの、親しみを込めて呼ばれることに嬉しく思い、そのまま呼ばせている。
元親に望まれて船に乗るとき、元親はの能力のことを部下達に話した。
奇異の目で見られたらどうしようかと内心ビクビクしていたではあったが、その反応は予想とは違っていた。
「マジっすか! 流石巫女ってすげえんすね!!」
「これで美味しい晩飯が食えるかもしれねぇぞ!」
「アニキ、ちゃんと了承とって連れてきたんすよね」
などと口々に言ったものの、誰一人として奇異の目で見るものは居なかった。むしろ尊敬の眼差しで見られ、正直と惑った。
「俺の軍にお前を拒絶するようなヤツはいねえ」という元親の言葉通りだった。
いつから自分は涙腺が弱くなったのだろうか。
幸せだと感じその気持ちで目が潤む。
長宗我部の者がを信頼してくれてることも幸せの一部だが、何よりも隣に元親がいることがにはすごく安心できた。
自分の居場所がある。受け入れてくれる人がいる。
それはなんて素晴らしいことなのだろうか。
かつて、父母に捨てられ、可愛がってくれた養父を失い、居場所を確保することは酷く苦しかった。
しかし、ここにはすんなりと立っていられる居場所がある。
これも元親のお陰だ。そして、今なら元親と会う原因になった自分の能力を誇らしくも思う。
「なんだぁ? また泣いてんのか」
元親はからかうように、でも、困ったように、それでも顔には幸せと言った感情が滲み出ている様子で笑う。
「な、泣いてなどおりません」
プイッと顔を背けては見るものの、目が潤んでいたのは間違いなく見られたようで、元親の笑い声が聞こえた。
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卯月 静 (07/10/02)