元親達が本体を離れた後、は精神を海に集中させていた。
見える距離ではないが、海上のことはには感じることができる。
の見ている方向の先には、船が数隻あり、ざわついていることが分かる。
きっとそれが、元親の攻めた船だろう。長宗我部軍らしい熱気を感じる。
しかし、時折感じる血の気配にの眉間には皴がよった。
元親なら大丈夫だ。彼が簡単に負けるはずはない。
不安を振り払うように、祈るように自分に言い聞かせる。
「元親様……え……?」
元親達のいる辺りとは全く別の場所に船の気配を感じた。
漁師の船ではなく、大きな船が二、三隻、その船の雰囲気は冷たい印象を受けた。
船は確実に達のいる方へ近づいている。このままだと、その船と遭遇するだろう。
船の正体が分からない。敵か味方か分からないが、長宗我部軍への援軍だと到底は思えない。
「一体、誰……?」
は、先ほど以上にその船へ意識を集中させる。
船を包む空気は冷たく、長宗我部軍とは対照的だ。
海のことは感じ取れるが、船上の会話まで聞こえるわけではない。
だが、その船の敵意が薄っすらとではあるが、こちらに向けられていることが分かる。となれば……。
「っ?! 謀られたっ!」
元親が攻めた船は囮で、今こちらに向かっているのが本体なのだろう。
最大の戦力で、四国を治める元親が居ないうちに攻め込み、四国を掌握する策に違いない。
今この船にはと部下しかいない。
ある程度の戦力は、元親と一緒に行ってしまった。
小船に乗れる人数は限られる。だから、少数精鋭で攻めたのだ。まさか、それが仇となるとは。
さすが智将と言うべきか、それとも、こちらがあまりに単純すぎるのか。
部下達はまだ何も気づいていない。まだ結構な距離はある。だが、元親の所に伝令の船をだして、戻ってくるには時間がない。
これ以上戦力を削るのは得策ではないが…………。
「小太郎っ!」
が呼べば、小太郎は姿を現す。
「今すぐ元親様の所へ行って伝えて。その船は囮で、本体は今この船に向かって来ていると。全ては毛利の策だと」
だが、小太郎は首を縦に振ろうとしない。
きっと、ここにを残していって良いものか悩んでいるのだろう。
「アネゴッ!! 今の話は一体っ!」
小太郎との会話を聞き、周りの部下達が集まって来た。
「元親様達が攻めた船は囮です。まだ離れてはいるけど、元親様とは逆側に大きな船が数隻あるわ。このままだとここに来るのも時間の問題よ」
の言葉に、周りは騒がしくなる。
「元親様達が戻ってくるまで、なんとかこの船を持たさないと…………」
「……任せてくだせぇ!! この船とアネゴは俺等がなんとしてでも守ります!」
誰とも無しに、声が上がると、次々に声が上がり、皆の指揮は高まった。
「小太郎、お願い。元親様の所へ。貴方が一番早いから」
小太郎は一つ頷き、呼び寄せた鳥に捕まり元親達の元を目指した。
元親達が戻ってくるまで、どれくらいかかるか分からない。
だが、できるけ時間を稼いで、ここを持たさなければいけない。決してこの船が沈められるようなことがあってはいけない。
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卯月 静 (08/03/01)