【戦国御伽草紙】

鬼ヶ島の乙姫 拾九





「元親様……」

 待ちわびていた人が現れ、は安堵の笑みをこぼす。
 信じていなかった訳ではない。彼は必ず来ると信じてはいた。だが、それとこれとはやっぱり別物で、不安であったことは確かだ。

「アニキー!!! 待ってましたぜー!!」
「俺達、アネゴのことは護りましたぜ!!」
「良くやったな、野郎共っ!!」

 元親が来たことで、長宗我部軍の士気が高まる。

「お前が無事でよかった」
「いいえ。元親様の方こそ無事で何よりです」

 不安の糸が切れたのか、の目には薄っすらと涙が見える。
 だが、今はまだ気を強く持たなくてはいけない。

「……何故だ。まだ時間がかかるはずだ……」

 予想していなかった元親の登場に、元就は狼狽し、うわ言のように繰り返している。

「残念だったな。悪ぃが、俺には勝利の女神が付いてるんでな」

 元親はそう言って、を抱き寄せる。

「また……その、女かっ……」

 自分の策を邪魔されただけならまだしも、元親が来たことで、確実に元就の策は潰された。
 今まで、元親のことが気に入らなかった。そして、彼の元に例の巫女がいるのなら、自分の駒にするのもいいだろうと思っていた。
 だが、その巫女にここまでコケにされたとあれば、元就としては、もはや手に入れるよりも、元親共々排除する気でいた。
 策を破られたからといって、そこでうろたえ、崩れるほど元就は弱くはない。

「我の策を見破ったことは誉めてやろう。だが、そうしたことを後悔するがいい。ちっぽけな鬼共々葬ってやろう」

 言うや否や、元就は両手を挙げ、天を仰ぐ。
 すると、元親の足元に、光の輪が現れる。

「ちッ!!」

 元親はを抱えて飛びのく。
 しかし、元親が着地したところにまた、光の輪が現れる。
 を抱えているために、反撃ができないが、彼女を放しては彼女が攻撃を受けてしまう。
 そう思うと、元親は避けるしかできない。

「逃げ回るしか出来まいか……。さっさとその女を放したらどうだ」
「誰が、放すかよっ!!」
「元親様、私は大丈夫です。このままでは元親様までっ!!」

 心配するを他所に、元親は放そうとしない。
 彼女を放すわけにはいかないが、このままではいずれ自分共々彼女も攻撃を食らってしまう。元親は逃げながらも辺りを見回した。
 すると、ふと小太郎が目に入る。
 数秒間。しかも、目のみの会話。だが、二人にはそれで十分だった。

「とうとう。女を見捨てたか……」

 元親が、を置いて、その場を離れた。
 元就がそのことに気づかないはずはなく、のいる場を狙う。
 は来るだろう衝撃に供え、目を瞑る。
 元親の為には仕方がない。そう覚悟した。
 しかし、いつまでたっても衝撃がこず、恐る恐る目を開けた。

「小太郎……」

 目の前には小太郎がいて、自分を抱きかかえていた。
 元親がを置いた後、元就の攻撃が発動する前に小太郎がを抱えて避けたのだ。

「うるぁぁ!!!」
「くっ?!」

 元親の碇槍が元就を捕らえる。
 元就は輪刀で防ぐが、力は元親の方が強く、その衝撃は凄まじい。
 元就は後ろに飛び退き、元親は更に攻撃を加える。しかし、それは元親の光の輪により、防がれる。

「たかが、海賊の分際で、我に勝てると思うな」

 更に間合いを取った元就は、輪刀を元親目掛け飛ばす。
 狭い船上での戦いに、毛利の兵も巻き込まれているが、元就は気にもしていない。
 逆に元親にはそれが気になってしかたがない。
 元親は子分達が巻き込まれないように、彼等が避難したことを確かめて攻撃を開始した。しかし、元就は自分の部下が自分自身の攻撃で傷つこうとも攻撃を止めようとしない。
 元親は、飛び上がり輪刀を避け、そのまま元就に向かって突っ込む。

「これで、終いだっ!!」

 その勢いを使い、元就に切り込んだ。
 輪刀が手を離れて居る為に、防ぐものがなく、思いっきり攻撃を食らってしまい後ろへ飛ぶ。

「舐めた真似をっ……っ?!」

 飛ばされ、体を起した元就の喉元には元親の碇槍の切っ先があった。


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卯月 静 (08/03/25)