明智に狙われているのであれば、自分の元から離すのは危険だ、ということで、は常に元親の近くにいた。しかし、城下の村での祭事の為に、元親から離れていた。
もちろん、部下達の護衛付きだ。
「ごめんなさい。皆さん忙しいのに」
「何、言ってるんスか。アニキからアネゴを守るようにいわれてるんスから!」
わざわざ付いてきてくれて、悪いなと思っていた。
しかし、部下達は、何も気にしている様子はなく、むしろ、元親に任されたことを誇らしく思っているようだ。
「さあ、早く戻りましょう。今日は、皆さんの好きなものにしましょうか」
護衛のお礼に、は今晩の夕食を彼ら要望の物にすることにした。
それを聞いた部下達は、とてもよろこぶ。しかし、現れた男に、皆の表情が強張る。
「おやおや、ここで会えるとは……」
現れたのは、大鎌を持った銀色の長い髪の男。その纏う空気は、さながら、黄泉の国からの死者のようだった。
部下達は、の前に庇うように立つ。
「久しぶりと言えばいいですかね。『菜々』」
男の言葉に、は目を見開いた。
「……明智……光秀……」
「おや、他人行儀ですね。それとも……私のことは忘れてしまいましたか?」
光秀の言葉に、雰囲気に、鳥肌が立つ。
「アネゴ……」
知り合いだという口ぶりに、部下達はを見る。
しかし、次の瞬間、の目の前に紅い色が散らばる。
「ギャァァァ!」
「グハッ!!」
叫び声と共に、を庇っていた部下たちが地に伏した。
光秀の持つ大鎌からは、まだ、赤い血が滴り落ちていた。
は、とっさに、矢を番えようとしたが、この近距離だ、間に合うわけもなく、鎌の刃がの首元まで来ている。
「貴女を探していたのですよ……」
光秀は、鎌の刃をの首元に当てる。すると、皮膚が切れて、ツーッと血が流れる。
「帰って来なさい、『菜々』」
光秀に殺気はない。しかし、この男のことだ。いつ切りつけてくるか分からない。血に見入られ、人を殺めることに快楽を感じる異常者。の光秀の評価はだたそれだけだ。
動くこともできず、しかし、切られた部下たちが心配で、視線は部下たちへやる。彼らはまだ息があった。しかし、手当てをしないと、どうなるかは分からない。
何とかしてこの状況を打破しなければ、そう思っていた時、光秀が、飛び避けた。光秀がいた場所には、大きめの手裏剣が刺さっている。
「小太郎……」
「これはこれは…………」
の前には小太郎が立っていた。
今回、小太郎を連れずに出てしまったから、気づいた小太郎が追いかけて来たのだろう。
「仕方ありませんね……今日は一先ず退散することにしましょう……ですが、今度会った時には、返事を聞かせて貰いますよ」
そういうと、光秀は姿を消す。
は、我に返ると、部下たちが無事か確かめ、急いで、城から応援を呼んだ。
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卯月 静 (09/07/21)