【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 壱
トンネルを抜けると其処は雪国でした。
なんて小説の一節があったな。と半ば寒さで麻痺しつつある頭で考える。 何故、自分は今こんなところに居るのだろう。 こんなところと言っても吹雪で周りが見えないためにどんなとこだとは言えないが、言えるとすれば、吹雪の真っ只中である。 しかも、今が着ているのはロンTにジーパンという、防寒性の欠片もない格好。せめてジャケットくらい着てくれば良かったと思わないでもないが、近くのコンビニに行くのにそこまで着込まなくっても寒くはないだろうと高を括っていた。 「ヤ、ヤバイ……。眠くなってきた」 寝るなー。寝たら死ぬぞー。と自分を鼓舞してみるが何の効果もない。 その上、寒さでガチガチと歯を鳴らしながら、近道だとか思って一回も通ったことのないトンネルを通るもんじゃないなと考えていたり、冒頭の小説の一節が浮かんでくるあたり、やはり思考回路は麻痺してるのだろう。 そんなことを考える前にどうにかして暖を取るか、吹雪を避ける術を見つけ出すのが先決なのだが。 「思考回路といえば……カイロがあれば……ちょっとは……暖かかった……か……な……」 カイロくらいじゃこの吹雪は免れそうにはないけど、と思うこともなく。はバタンッと雪の中に倒れ、その思考は強制的に終了した。 目が覚めた。そして、未だに麻痺している頭で考える。 此処は何処だ? 天井らしきものが見えるから何処かの小屋や何かだろうけど。 「目覚めただか?」 横から声が聞こえ、そちらを向くと10歳くらいの女の子がいた。 今時居ないだろうといった古めかしい格好をしていて、服装的には北国の服といった感じだが、その割りには露出は多く、寒くないのだろうかと疑問にも思う。 それとも子供は風の子というくらいだから、コレくらいの軽装が普通なのだろうか。 「えーっと……貴女が助けてくれたのかな?」 「オラの村の若い衆がお前さ見つけただ」 少女の言葉は独特の方言が濃くでていた。 「そっか。ありがとう」 「お前さ、あそこで何してただ? しかも、あんな着物では凍傷になっちまうだ」 「何かしてたって訳じゃないけど、強いて言えば、コンビニに行く途中で迷った、かな」 「こんびに?」 の言葉に少女は首を傾げる。 どうやらコンビニが通じなかったようだ。 「うん、コンビニ。ここらには無いからか……な……?!」 少女と会話をすることで思考がはっきりした。 おかしい。いや、トンネルを抜けたら吹雪の真っ只中だったということ自体おかしいが、てっきり異常気象が来たせいだと思っていた。 最近は環境破壊や大気汚染といった問題で気象自体もあてにならない。 台風が一月に何個も来たり、雪の降る季節が早かったりといったことでは驚かなくなった。 だから、とうとうそれがピークにでもなって、異常気象の結果、雪が降ったのかと思った。 しかし、そう考えると目の前の少女についてつじつまが合わない。 少女が北国の出身でここに最近越してきたとすれば訛りは不思議はない。 しかし、が住んでいる地域は普通にコンビニがあったのだ、いくらなんでもこの10歳くらいの少女がコンビニを知らないはずはない。 コンビニくらい、の住んでる地域なら幼稚園児でも知ってるはずだ。 なのに、目の前の少女は聞き返してきた。 少女はのうろたえぶりに不安そうに視線を向けてくる。 「あー……取りあえず、名前教えてくれるかな?」 名前を聞かないと呼ぶのに困る。 「名はいつきっていうだ」 「いつきちゃんね。えーっと、ここは何処?」 思考がはっきりとしてくると、今度は警戒しなければいけないということを忘れていたことに気付く。 今、自分がいるところは他人のそれも知らない人の小屋だ。ここの持ち主が良い人とは限らない。 目の前のいつきと言う少女は自分に害を加える様子はないが、その他の、いつきの言っていた若い衆というのが害を加えてこないとも限らない。 若い衆なんて、響き的にはいい感じはしない。 「ここは国境にある村だ。それよりもお前さの名前さ教えてくれねぇだか?」 「あ、うん。、よ」 国境の村。その言葉に違和感を覚える。 今時国境などとは言わない。 村と言うものはまだ残っているから、村と言ったことには不思議はない。しかし、何故国境なんて古風な言い回しを……。 それに普通答えるのなら、「何々県のなんたら村」と答えるはずだが……。 状況を把握しようとしたが、尚更混乱をしただけのようだった。 危険を承知でこの少女にいろいろ尋ねるのが状況を把握する最短の手立てにも思えた。 次へ 戻る 卯月 静 (06/12/16) |