【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 参





 同じ村のある家。
 いつきと数人の男達が円になって、話合っていた。

「もう、田もぼろぼろだべ」
「このままじゃ、わしら皆飢えてしまうだ」
「いつきちゃんどうするべ?」

 男達はいつきの方を見る。
 いつきは決心したように皆を見渡し、そして、宣言した。

「このままじゃいけねぇだ。こうなったら仕方ねえべ。オラ達の田はオラ達で守るべ。皆で一揆を起すだ!」

 いつきの宣言に男達は決心したらしく、皆頷いている。

「いつきちゃーん、いる?」

 の声に視線がに集中する。

「あ……ごめん。大事な話し中だった?」
「大丈夫だべ。もう調子はいいだか?」
「うん、ありがとうね。これからどうしたらいいか、相談しようと思って」
「……ここから出て行くだか?」

 いつきは寂しそうに聞いてくる。

「そのうちにはね。しばらくはお世話になりたいんだけど、いいかな?」
「それは大丈夫だべ。でも、出て行くんなら一揆が終ったあとの方がいいだ」
「一揆? 一揆が起こるの?」
「そうだ。戦ばっかりで田が荒れる一方だから、オラ達は一揆を起して自分達で守ることにしただ」

 その返答には少し考える。

「じゃあ、それに私も協力させてくれない?」




「あ゛〜さみィー」

 焚き火を囲み、武士達は寒さに震えている。
 皆、奥州で生活をしている為に、それほど寒さに弱いわけではない。
 しかし、それでも、これだけ雪が深い地域だと、自分達の生活区とは違い、寒さも厳しくなってくる。
 それは、大将である、筆頭伊達政宗も例外ではない。

「おい、小十郎。さっさと終らせて、帰るぞ。アイツ等にもそう言っとけ」
「承知いたしました」

 誰もがさっさと帰りたいと思っている。
 しかも、ここに来ているのはどこかの将を討つ為ではなく、勃発した一揆を収めるためだ。
 本来なら、伊達軍が出ずとも、津軽、南部あたりの諸大名が抑えるはずなのだが、どうやら、それができず、伊達に援軍を要請してきた。

「で、なんでこんなに梃子摺ってやがんだ?」

 相手は戦の経験もない農民だ。
 戦慣れをしている、武士達が梃子摺るのが不思議である。

「どうやら、地の利を活かした戦法をしてるらしく、更に、向こうには不思議な力を持った姫がついていると……」
「Hmm... 姫、ねぇ……」

 情報によると、一揆衆は地の利を活かし、その為、手こずっているらしい。
 更に、その姫とやらは、不思議な力を持っていて、そのおかげで負け知らずらしい。
 もっとも情報はどこまで信憑性があるのかはわからない。

「しかも、むこうの頭は12歳の少女だそうです」
「んなガキにここまで好き放題されてんのかよ。情けねぇーなァ」

 そういいながら、政宗は出撃する。今回は戦ではないから、いつもの儀式は行わない。
 農民相手ではいつもの戦程の楽しさなぞない。




……本当に大丈夫だか?」
「大丈夫だって。こっちには『不思議な力を持つ姫様』がついてるんだから、ね」
「で、でも、はこの村には関係ねぇのに……巻き込んじまって……」
「助けてくれたのはここの皆でしょ。だからせめてものお礼だって」
「分かっただ……。がそこまで言うなら仕方ないべ」

 いつきはスクッっと立ち上がってこぶしを握る。

は其処まで思ってくれてんだ。オラ達も一生懸命やるべ!」

 いつきが出て行き、は一人になった。
 戦に慣れていない、農民が武士相手に戦うには分が悪い。
 地の利はコチラにあるから、それを使えばいいと言ったし、いくつかの作戦も提供した。
 それでも、きっと彼等は勝てないだろう。
 向こうにはきっと戦略を考える参謀がいるだろうし、始めは狼狽するだろうが、慣れれば、地の利など好条件には入らない。
 問題は負けた時の、村人の特に首謀者であるいつきの処分だ。
 情にほだされてお咎め無しにしてくれるのか、もしくは問答無用で見せしめにされるか……。
 また、どんな人が出てくるかによって、自身の情報の使いどころも違ってくる。
 お偉いさんが接触してくるように、少なからず興味が沸くように「不思議な力を持つ姫」と言うことにしてくれと言った物の、どれくらいそれが役に立つのか。正直分からない。
 むしろ、悪い方に転がる可能性だってある。
 「不思議な力がある」と噂を流してしまった手前、それを利用しようと思う者も必ず出てくるに違いないのだ。
 どちらにしろ、やらずに後悔するのもイヤだし、そのままウジウジ悩むのも性に合わない。
 どこまでやれるかは自分次第。

 外の音が少し静かになったことに気付き、は家を出た。


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卯月 静 (06/12/21)