【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 六





 政宗といつきのいい争いはまだ終らない。
 と言うか、「連れて行く」「駄目だ」の押し問答で埒が空かない。
 てか、当の本人の意見は無視?
 行くか行かないかなんて、どっちも答えていないのに。

「あ、あの……」
「あァ?」

 は恐る恐る小十郎に声をかける。
 先ほどのやり取りで小十郎が自分のことをよく思っていないのは十分に分かったが、二人が押し問答をやっている限り、の話相手は小十郎しかいない。

「止めなくて、いいんですか?」
「そのうち収まるだろ」
「そうじゃなくてですね……。私を連れて行くということに反対しないんですか?」
「政宗様がああなったら、俺が何を言った所で止めるような方じゃねーからな。言っとくが、あんたが城に来ることに賛成した訳じゃねえ」
「私の意見はないんですね……」
「諦めな。攫ってでもあんたを城に連れ帰るだろうよ」

 どうやら、分かってはいた事だが、伊達政宗はかなりの俺様タイプらしい。

「本当にに危害は加えないだか?」
「ああ」
「他のお侍もだか?」
「ああ、の身は俺が守ってやるから安心しろ」
「約束だ!! 破ったら承知しねえべ!!」
「分かったから、さっさとの荷物持ってきやがれ」

 どうやら、やっと一段落ついたらしい。
 いつきは荷物を取りに小屋をでた。

「え! いつきちゃん!! 荷物っていっても……あー、行っちゃった」

 荷物といっても財布しかない。
 着てきた服は、袴じゃ寒いからと着たまま袴を穿いているのだ。

「なんだ? 荷物は無ぇのか?」
「無いわけじゃないんですけど、ここに来た時に来てた服は中に着てるので」
「その格好で来たわけじゃないのか……」
「はい……あの……近くないですか?」

 政宗のほうを向いたつもりだったが、何時の間にか、政宗はの近くまで来ていた。
 自然とは後ずさる。
 が、途中で背中が壁にぶつかった。

「月からの princess の着物がどんな物か見せて貰おうじゃねぇか」
「え……ちょっ!!! ストップ!!! 脱がすなぁぁぁ!!」

 言うや否や、政宗はの着物に手を掛けて脱がそうとする。
 下に着てるのはロンTにジーンズだから別に見せるのがハズいわけではない。
 普通に見せろといわれたら別にその場で脱いだかもしれないが、政宗に押し倒されるような形で着物を脱がされるというのは気分の良い物じゃない。
 というか、女の子なら慌てて当然だ。

「やめてってば!! ちょっと、止めて下さいよ!! 殿がご乱心ですよ!」

 は涙目になりながら小十郎に助けを求める。
 小十郎は軽く息をついて、政宗に声をかける。

「政宗様。ここでは村の人々に聞こえてしまいます。今はご自重なさって下さい」

 政宗は渋々といった感じでを開放する。
 小十郎の言い方に少なからず疑問は感じるものの、テンパってしまっていたにはそこまで頭は回らなかった。
 助かったという気持ちでいっぱいだったのだ。




 いつきに持って来てもらった荷物(と言っても財布のみ)と村の皆からの贈り物を受け取る。
 そして、村の外れまで村の皆は見送りに来てくれた。
 いつきは涙をぽろぽろと流して、との別れを惜しんでくれている。
 は泣いているいつきを抱きしめて、

「泣かないで、折角の可愛いお顔が台無しだよ? 私は笑ってるいつきちゃんが好きなんだから、ね?」

 と声を掛けた。
 いつきは頑張って笑おうとするが、それでも、瞳から零れ落ちる物は止めることが出来ないらしく、涙をこぼしながら笑顔を作る。

「うんうん。そっちのが可愛い、可愛い」
……元気……でな。あのお侍が……酷い……ことさ……したら、いつでも、帰ってきて、ええだよ!!」
「うん。ありがとう」

 は別れを言って、政宗たちのいる方へ歩く。

「それじゃ、行くぞ。乗れ」
「え? 何処にですか?」

 言われて、そーいや、自分はどうやって城まで行くのだろうと思っていたら、政宗は自分の前を叩いた。

「ええ!? む、無理です!!」
「Hurry up!!」

 政宗はそのままを引っ張り上げ、自分の前に乗せる。
 あまりの高さと馬に乗ったことがないという恐怖から政宗にしがみ付いた。

「OK. そのまま、しがみ付いておけよ。Hey guys!! ..........GO!!!」


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卯月 静 (06/12/28)