【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 七
よく、テレビだとか、家電売り場だとかに展示してあるダイエット機具。
その中に、でかいサドルみたいのが動いて、そこに座ってるだけで、乗馬してる運動になるからダイエットになるって機械。 最近まで、というか本当についさっきまで、その効力を疑ってました。開発者さんごめんなさい。 乗馬ってただ馬に乗ってるだけだし、あのダイエット機具だってそんなに効力あるとは思わなかったし。 開発者には悪いけど、乗馬なんかダイエットに適さないと思ってました。 元の時代に帰れるかどうかは分からないけど、帰れたら、すっごいダイエットに効くって謝罪と一緒に宣伝したい気分。 乗馬があれほど体力使うとは思わなかった……。 「情けねぇな、あの程度で」 の乗っていた馬の運転手、いや、この場合は騎手と言うのか。それ以前に、今がヘバっている原因である政宗は、馬から降りて地面に座りこんでしまったを見下ろしている。 いつき達の村から暴走族のごとく城まで走ってきた伊達軍。 は馬には乗れないからと政宗の馬に無理やり乗せられたのだが、政宗の運転は荒い荒い。 手綱は持たないわ、速度は速いわ。あの速度は現代の道路であれば、確実にパトカーに追い回されてるに違いない。むしろ、速度を取り締まってくれるおまわりさんが欲しい。と思った程だ。 とにかく、馬に乗るなんて初めてな上に、荒い運転されては、の体が付いていかないのも無理はない。 「……馬には、慣れて、おりません、ので……」 やっとの思いで搾り出すように声を出す。 馬に慣れている現代人など、競馬の騎手か、乗馬を嗜むお嬢様くらいだ。 生憎、は競馬の騎手でもなければ、お嬢様でもない。 「Are you OK?」 「NO!」 大丈夫か? と聞く政宗には間髪いれず、答える。 大丈夫なわけはない。 「仕方ねぇな」 政宗が溜息を吐き、そう呟いた後、の体は中を浮いた。 正確には、政宗に抱き上げられた。 俗に言う、「お姫様抱っこ」だ。 「へっ? ……えっ?! ちょっ!! 下ろしてっ!! ストーップ!! 下ろしてってばっ!!」 「うるせぇ。お前が動けねぇっていうから、俺が直々に運んでやってるんだろ? You see?」 そりゃ、は先ほど思いっきりヘバってたし、歩けなかった。 がっ!! 何も抱きかかえて運ぶ必要はないだろう。仮にも政宗はこの城の殿だ。一番偉い人であるはずなのだ。 そんな人に横抱きにされて運ばれたとなれば、明日には自分のどんな噂が流れるのか……。それを思いは頭が痛くなった気がした。 政宗が、見慣れぬ女子を抱きかかえていることに、城の者達は当然の如く驚いていた。 視線が痛い……。 通り過ぎる者、全てがを見ている。その感情は驚き、呆れ、興味、嫉み、憐みと様々だが、いろんな感情の混じった視線が、に遠慮なく向けられる。 当の政宗といえば、そんなことは何処吹く風で、涼しげに歩いている。 としては、コスプレをしたまま、お姫様抱っこされるという、まさに、罰ゲームを受けている気分だ。 早く目的の部屋に着いて欲しい!! それのみを一心に願った。この際、牢屋でも構わないかもしれない、とまで考えてしまった。 さすがに、牢屋だったら嫌だとは思うが。 「着いたぞ」 目的の部屋に着いたらしく、襖を開け、中に入ると政宗はを下ろした。 小十郎が後を着いて来ていたらしく、部屋に入り、そして、襖を閉めた。 「恥ずすぎて、死ねるわ……」 下ろされても、まだ顔が熱いのが分かる。きっと今自分は真っ赤だろう。 「さぁて……『かぐや姫』、先ほどの続きと行こうか? Are you ready?」 声を掛けられて振り向くと、直ぐ目の前に、シニカルな笑みを浮かべた政宗の顔があった。 その瞬間、真っ赤だったの顔は一気に真っ青になった。 「え、えーっと……。先ほどの続きとは?」 は平静を装って、尋ねる。 今、に効果音をつけるとしたら、「ダラダラ」と汗の流れる擬音語が合うだろう。 「村での続きだ。場所が場所だったから途中になった。が、ここは俺の城だ。邪魔はねぇ」 政宗はニヤリと笑うと、の着物に手を掛けた。 は未だ、頭が付いていかない。 先ほどの、村での続き……。村って言うのはいつきちゃん達の村のことで、続きって言うのは、私が誰かってことで……。でも、「月から来ました」的なことを言って、そしたらそれで話が進んで……それで…………?! 「ストップ、ストップ!! 分かりました!! 私が着てた着物が見たいんですよね!! 見せますから、引ん剥かないで下さい!!」 がそう叫ぶと、政宗はあっさりと着物から手を離した。 政宗が手を離すと、は一息つく。 本当にこのお殿様の行動は心臓に悪い。加えて、ちらりっと小十郎の方を見ると、表情を変えず、そこに座っている。 見るからに強面なこの伊達政宗の家臣は、政宗第一のようだ。それは村でのやり取りで感じとってはいたが。 「分かったなら、さっさと脱いで、見せろ」 普通女性に向かって脱げとか言うか? と思いつつ、だが、ここは政宗の城で、不用意なことを言えば切捨てられかねない。 仕方なくは今来ている、袴の帯に手をやる。 男性の目の前で着替えをしている気分になるが、中は普通に服だ。視線が気になりはするが、下着姿になるわけではないから恥ずかしくはない。 袴の帯を緩め、袴を脱ぐ。その下にはジーパンを穿いている。 袴を近くに置いたら、今度は上に来ている着物を脱ぐ。 下にはロンTを着ているのだが、二重に着ていたことで暖かかったのだが、脱いでしまった今は少し肌寒く感じる。 肌寒いといっても、この格好で雪山の中にいたのだから、それに比べればまだマシだ。 「伊達様、これでよろしいでしょうか?」 政宗はの直ぐ近くに座っていて、は着物を脱ぐために立っていたから見下ろす形になる。 だが、政宗がそれを気にした様子もなく、ただ、の着ている服に視線が釘付けになっていた。 「それが、月の着物か……。見たことの無い生地だな……南蛮の衣装とも形も生地もだいぶ違う」 政宗はの服にさわり、材質を確かめる。 見たことも無いのも無理はない。の着ているロンTは綿が含まれてはいるが、化学繊維も含まれている。ジーパンにしてみれば、この時代に見かけることはなかっただろう。 一方、何の警戒心も抱かずに、の服に触る政宗に、小十郎は僅かばかり眉を上げた。 警戒心が無さ過ぎる。着物の下に着物を着ていたということは、そこに何か武器を隠すことが出来たと言うことなのに……。 そうは思いつつ、から殺気がないことや、の手は戦う者の手ではないため、不意を食らっても、政宗に傷を負わすことは出来ないだろうと踏んでいた。 万が一、が可笑しな行動を起せば、その場で切るだけのこと、と思い小十郎の手は腰の得物に添えられていた。 「もう……満足頂けましたでしょうか?」 「ああ……。アンタが間違いなく、他の所から来たということは分かった」 やはり、政宗はの「月から来た」的発言を信用していなかったようだ。 話の進行上、月から来たということにしておいて、こうして後で確かめるつもりだったのかもしれない。 「月から来ました」など、現代人のでもすんなり信じるわけがない。いや、現代人だからこそ信じないかもしれない。 「アンタ、本当に月から来たのか?」 「信じる信じないは、伊達様ご自身でございます」 真っ直ぐ視線を向けて尋ねる政宗に、これまた真っ直ぐ視線を向けて答える。 「いい度胸だ……。アンタがどこから来ようが関係ない。ようは、一揆衆を導く姫を手元に収めたってのが重要だからな」 政宗に座れといわれて、その場に正座する。 「さて、これから取引といこうか」 「取引?」 「そうだ。俺達はアンタの取引に応じて、村のヤツラを助けたんだ、ただ城に連れて来ただけだと思ってたわけじゃねぇよな?」 「……内容によります」 政宗は自分が絶対断らないだろうという、強気な表情で条件を述べた。 次へ 戻る 卯月 静 (06/12/29) |