【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 九





 政宗に世話になるようになって一ヶ月。
 の予想通りと言うか何というか、ばっちり、しっかり、の城での地位は『連れて来られた姫様』というだけでなく、『政宗様の奥方候補』となってしまった。
 自身は、城に置いてくれた政宗に感謝こそすれ、そんな感情は抱いていなかった。
 しかし、政宗が女子を城に置くなどということは初めてのことで、尚且つ、その城に置いた姫の部屋にあしげく通っていればそのような噂も必然的に立つだろう。
 あしげく通っているといっても、政宗は月の世界のこと、つまりはのいた現代の話を聞きにきてるのだ。
 もっとも、そんな誤解をされるようになったのは、それだけが理由ではなく、その他に大きな原因がある。

、いるか?」
「何か用? 政宗さん」

 理由の一つは、政宗に対する呼び方と、敬語を使っていないということだ。

 むろん、最初はは敬語を使っていたし、政宗のことも「伊達様」と呼んでいた。
 しかし、城に住む代わりの条件を政宗が出して来た時  




「城に住むならその敬語をやめろ。それと、『伊達様』と呼ぶのもやめろよ」
「え? 流石にそれは畏れ多いのですが……」
「Ha! 今更だろ? 既に俺に向かって敬語なんて使ってない時があっただろうが。その話し方で話せよ。俺が特別に許可してやる」

 確かに途中政宗に敬語を使っていないときはあった、しかし、許すからといわれてもそう簡単にタメ口でなんて話せない。
 とはいえ、としても、いつも通りの話方の方が楽でいい。
 政宗自身の年齢もきっととそんなに代わりはしないはずだから、タメ口の方が話しやすい。
 が、それでも、政宗はこの城の殿で、一番偉い人で、下手にタメ口なんか使ったら、回りの人間に殺されかねない。

「俺が許可するんだ。他のヤツには文句は言わせねぇから安心しろ」

 真剣にそう請われれば、否とは言えないというか、政宗から半命令のようにいわれて、が否を唱えることが出来る度胸はない。
 流石に、名前までは呼び捨てにするわけにはいかず、さん付けで呼ぶことで簡便してもらった。

 もちろん、政宗に対しての話しかけ方がこのような、無礼な話し方だと家臣に最初は睨まれたが、皆政宗に丸め込まれ、あまつさえ、伊達の家臣達からは、が様付けで呼ばれるようになった  




「小十郎から許可はとったから、行くぞ!」
「何処に?」

 行き成り部屋に入ってきて、行くぞはないだろう、行くぞは。
 せめて何処に行くかくらいは言って欲しい。

「城下に決まってんだろ」

 お前は莫迦か、と続きそうなニュアンスで言われ、は呆れる。
 本当に、この男は何処までマイペースなのだろう。
 行き先を言われなければ分かるわけがない。
 それとも、戦国の世では「行く」=「城下」という常識でもあるのだろうか……いや、無いな。
 その方式が成り立つのはきっと政宗の中だけだろう。

「分かった。着替えるから待ってて」

 今のの格好は袴姿だ。
 着物を着るより、袴の方が楽だから、城ではこのままでいる。
 だが、城下に下りるとなれば小袖でも着た方が目立たなくていいだろう。

「……なんで、そこにいるの?」
「お前が待ってろって言ったから待ってやってんだろ」
「私は着替えるって言ったんだけど」
「俺のことは気にしないで着替えろ」

 気にするなと言って気にしない乙女が何処にいる!
 最初の時といい、今といい。少しは女の子に対する常識という物を考えて欲しい。

「私は着替えるんだから、外で待っててよ」
「手伝ってやろうか?」
「い、要らないからっ!!! でて、って」

 面白そうに笑いそう申し出る政宗を部屋から押し出す。
 政宗は絶対の反応を楽しんでいるのだ。
 つくづく厄介な人のお世話になったものだと思う。

「政宗さん。お待たせ」
「So late.」
「しょーが無いでしょ」
「ほら、行くぞ」

 英語が通じるのが嬉しいのか、が英語にもすんなり反応すると、政宗は嬉しそうにする。
 この時代に英語が通じる人間は殆どいないから、英語で言っても、打てば響くの反応が新鮮なんだろう。

 政宗は、慣れない着物にゆっくりしか歩けないを引っ張って、城下に下りた。



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卯月 静 (07/01/07)