【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 拾壱





 政宗について行った先は武具屋だった。
 どうやらかなり有名な店らしく、全国に暖簾分けをした支店があるらしい。
 ここはその支店のうちの一つのようで、店には様々な武具が並べられていた。
 もちろん、並べられているものは、刀や甲冑といった、現代であれば博物館でしか見れないだろうというものばかりだった。
 ももちろん、そんな本物の刀や甲冑などは、博物館でしか見たことが無い。その為に、まるで、博物館に来たかのような気分になっていた。
 政宗の方はといえば、慣れたもので、どんどんと店の奥の方に進んでいく。
 刀でも買い替えに来たのだろうかと思っていただが、政宗が立ち止まったところは短刀の並べれている所だった。
 刀を六本も使う政宗に今更短刀などいるのだろうか? とも思ったが、刀を持っていない時の護身用だろうと勝手に納得していた。
 しかし、次の政宗の言葉で、そのの予想は外れていることを教えられる。

、好きなの選べ」
「えっ?! 私刀なんて必要  
「あるだろう」

 いらないと答えようとしたが、直ぐに政宗の遮られた。
 政宗の表情は呆れたようでもあるが、目は真剣だった。

「お前、自分の立場分かってんのか?」
「立場?」

 政宗の言葉の真意が分からず、首を傾げるを見て、政宗は思いっきり溜息をついた。

「今のお前は『月から来た姫』ってだけじゃなく、『俺の嫁候補』なんだぞ? その意味が分からねえお前でもないだろ?」

 言われて、は考える。
 『月から来た姫』というのは、自分で言ったようなものだ。しかし、『政宗の嫁候補』というのは、政宗にお世話になることになって周りに認識されたものだ。
 そして、ここで重要になるのは、『月から来た姫』というものだけでなく、『政宗の嫁候補』というものが付いているということだ。
 すなわち、諸国にとってみれば、不思議な力を持っているとされる『月からの姫』は自軍に引き入れれば天下取りの良い道具になるし、『奥州筆頭の嫁』となれば伊達を攻略するための材料にもなる。
 この際、が何も不思議な力を持っていないことや、政宗の嫁ではないという事実は関係ない。周りはそう思っているのだから。
 つまり、は誰かから狙われる可能性がある。ということである。
 というか、むしろ政宗がそう認識しているということにも驚いたのではないかと思う。

「…………あー……なるほど」
「やっと分かったか……」
「でも、こんな高価なものじゃなくても安いのでもいいのに……」
「Ha!! 俺が贈るんだ、安物なんてやれるかよっ! 金は心配すんな、俺が出す」

 いえ、政宗が出すから尚更高価な物は貰えないんだけど……。と言うの思いは政宗には伝わりそうにはない。

「それに、俺からの present っつーことにしておいた方が、肌身離さず持ってても不信に思われることもねえだろ」

 それもそうだ。
 何故短刀など持っているといわれても、『政宗の嫁』ということになっているが、政宗から贈られた短刀を持っていても、周りは何も思わない。
 加えていえば、城の中でも政宗自身が贈った物だとすれば、家臣達から怪しまれることなく、身を守る武器を持ておける。
 というか、『政宗の嫁候補』っていうのは決定なのだろうか?

「ほら、早く選べっ」
「……う、うん」

 政宗は意外と、自分のことを考えているのだなぁ〜と歓心してしまった。
 傍若無人な俺様野郎だと思っていたが、ちゃんと考えてくれてる辺り、さすがといったところか。

「コレ……とかいい?」

 は遠慮がちに一つの短刀を指差す。
 何を選んでもいいとは言われたが、は一般庶民だ。
 しかも、こんな高そうな物をくれるからと、当たり前のようには受け取れない。

「ァ? ああ、それでいいのか? 店主、これを貰うぜ」

 いつの間にか傍にいた、武具屋の店主に政宗は言いつける。
 店主も政宗が護衛もつけず来ることには何も驚かず、しかし、きちんと伊達政宗だと認識はしてるらしく、丁寧な態度で選んだ短刀を袋に入れて渡す。

「あ、ちゃんとお金持って来てたんだ……」

 政宗は金を払い、その短刀を受け取り、に渡す。

「俺が present してやったんだ、大切にしろよ」
「うん、ありがとう」

 政宗に特別な意図はないのだろうが、男性に贈り物をしてもらったという事実か、はたまた相手が政宗なのかは分からないが、受け取った短刀はとても輝いて見えた。


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卯月 静 (07/01/17)