【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 拾弐
政宗がに短刀を贈ったのは、常にのことを守ってやれるわけではないからだ。
の身の安全を約束に城に連れて来たのだから、それを反故にするわけにはいかない。 見たところ、は自分の身を守る術を持っているようには思えない。 しかし、いつも政宗が傍にいるわけにはいかないし、信用の有る者を常につけておくわけにもいかない。 彼等にもそれぞれやってもらわないといけないことがあるのだ。 出来るだけ、自分の手で守ってやるのがいいとは思う。だが、それが出来ない場合の方が多いというのが事実。 それなら、と。政宗はに短刀を贈ったのだ。 政宗自ら贈ったのだから、家臣にあらぬ疑惑をが受けることも少ないだろうし、どこかに行く場合、持っていても不審はない。 そう……できるだけ、に危険が及ばないように、危険があっても身を守れるようにと、そう思って渡したのだった。 だが……。 「随分大人数だな」 そろそろ城に戻ろうと、町を抜けた途端、柄の悪い男達に二人は囲まれた。 伊達軍の柄の悪さとは違い、目の前の男達は正しく追いはぎの類であった。 「……俺から離れるんじゃねぇぞ」 「……うん」 相手は雑魚だ。 を守りながらの戦闘にはなるだろうが、負ける気はしない。 「今なら見逃してやる。さっさと失せろ」 「わりぃが、はい、そうですか。とはいかないもんでなァ」 男達の視線はチラチラとの方に注がれる。 は政宗の傍で震えてこそいないものの、ギュッと着物を掴んでいる。 この男達の目的は間違いなく、だ。 しかも、売り飛ばすとか食いものにするためとかといったことではなく、自身を狙っている。 いや、正確には「不思議な力を持った月からきた姫」が目当てなんだろう。 彼女の噂はどうやらかなり広範囲まで広がっているらしい。 「その女ァ、置いていきな。そしたら、おめぇは無傷で帰れるぜ」 「Ha! 誰が手前ぇ等の指図なんか受けるかよっ! 俺に喧嘩売ったこと……あの世で後悔させてやるぜっ!!」 次の瞬間政宗は、刀を抜く。 もちろん、お忍びで来てた為に、6本ではない。 それでも、男達は政宗の相手にはならなかった。のだが……。 「キャァァァァァ!」 「がはははッ。形勢逆転だなァ」 「shit!! 俺としたことが……」 この時ばかりは、戦いを好む自分の性格が仇となった。 一瞬。ほんの一瞬ではあるが、政宗の念頭から、が一緒であったということを忘れてしまったのだ。 その隙に、は背後から一つに結んであった髪を引っ張られ、敵の手に落ちてしまった。 髪を捕まれていては、逃げ出すこともできない。 「この女を手にいれりゃ、仕事は終わりだったんだが……。おめぇにはお礼をしないとなァ」 「政宗さんっ!!」 男達は容赦なく政宗に斬りかかる。しかし、政宗はの身を案じて反撃はできない。 かろうじて、避けてはいるものの、それもいつまでもつか……。 「さっきの勢いは如何した、どうしたァ!!」 どうにかして、この男から逃げ出さないといけない。 男はがあっさり捕まったためか、髪しか掴んでいない。 体格では明らかに負けているのだから、腕力で抵抗してもきっと無駄だろう。 もし、できるとすれば、隙を突くしかないのだが……。 は周りを見渡す。 何か、何か武器になるような物はないか……。 の目に一本の竹竿が映った。 のいるところから、そう遠くはない。 上手くあの竹竿が取れれば、武器になる。 あとは、どう隙を作るかのみだ。 チャンスは一回。それも失敗できない。 は決意をして、政宗から貰ったばかりの短刀を握った。 は下を俯き、大きく深呼吸をする。 髪を掴んでいる男は、は恐さを落ち着かせる為に、深呼吸をしたと思っているようだ。 落ち着かせる為に深呼吸をしたのは間違いではない。 しかし、恐さを紛らわす為ではない。 落ち着いて、冷静に行動できるようにするためだ。 は短刀の柄を右手で逆手に握る。 すぅーっと、鞘を抜いた。 男はの行動にはまだ気付いておらず、政宗へと視線を戻している。 鞘から出された刀の刃は上を向いている。 そのまま、ゆっくりを自分の頭上に持っていき、そして…………。 ザクッ!! 「何?!」 は頭上に持っていった短刀を髪に近づけ、思いっきり、髪を切った。 捕まれていた髪が切れたことで、は自由になり、そのまま、竹竿まで走る。 男は一瞬が何をしたのか分からなかったようで、固まっていた。 しかし、が逃げたことを理解し、直ぐに再び捕まえようと居ってきた。 「このアマァ!! ……クッ!?」 竹竿を掴み、男に向かって構える。 「舐めた真似をっ……」 竹竿ごときと思ったのか、それとも相手なら軽く捻れると思ったのか、男は警戒もせず、の竹竿を掴もうと右手を伸ばした。 が、掴む寸前、は構えていた竹竿の先を一回下げ、そして直ぐに男の手首目掛けて弾き上げた。 男は思っても見ない攻撃に体制を崩す。 今度は、男の右足のかかとを狙い、思いっきり横に薙ぐ。 足払いをされる形となった男は、そのまま、背中から地面に倒れた。 「Good job だ。」 起き上がろうとしたが、目の前には、既に他の連中を伸した政宗の刀の刃があった。 が捕まっていた男達から逃げたのを見て他の連中は伸したのだ。 「誰に頼まれたのか、あとで吐いてもらうからな、そこで寝とけ」 政宗は男の鳩尾に峰で打ち込む。 「……。大丈夫か?」 「うん、平気」 「……悪かったな……。危ねぇ目に合わせて」 「うーん。私が目的だったみたいだし、むしろ政宗さんを巻き込んだのが私だと思うけど」 「いや、城下に連れ出したのは……俺だからな……」 守るつもりで結局守れなかった。 に大事はないが、危なかったのは確かだ。 「でも、政宗さんが短刀くれたお陰で、助かったよ」 は先ほどのことなど、無かったように笑う。 それが、政宗には尚堪えた。 女の命とまで、言われる、髪をに切らせてしまったのだ……。 「……とりあえず、城に戻るぞ」 「うん。……やっぱり、小十郎さんに怒られるのかな……」 小十郎は怒らないだろうと政宗は思った。 政宗の予想通り、小十郎は怒らなかった。 もちろん、門の前で待ち構えていた小十郎は怒る気でいたようだが、政宗の表情との髪を見て怒りの表情は驚きに変わっていた。 小十郎は政宗から、城下に自分達を狙った者を捕らえていると聞いて、直ぐにそいつを回収するように命じた。 次へ 戻る 卯月 静 (07/01/17) |