【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫 拾四】

閑話 愛おしいモノ 前編





 政宗に抱きしめられて寝てしまった次の日。
 が起きると、居たはずの政宗は居らず、その代わりにには布団がかけられていた。
 多分、よりに先に起きた政宗が、を起さないようにと、布団をかけてくれ、そっと部屋を出たのだろう。

 ここは布団無しで寝るには寒い。布団をかけずにいたら確実に風邪をひいていただろう。

 は起き上がると、布団を畳み、隅に置いた。
 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。しかも、政宗の腕に抱かれたまま。
 そう考えると恥ずかしくてしょうがない。
 政宗に髪を切りそろえてもらう約束をしたから、今日は絶対顔を合わす。

「どんな顔して会おう……」

 普通にすればいい。と頭では思うのだが、きっと顔をみれば、思い出して赤くなってしまう気がする。
 これ以上考えたら、尚更恥ずかしくなるばっかりだからと、は髪をどのように切ってもらうか考えることにした。
 今の自分の髪がどんな風になってるのか、鏡を見ていないからわからない。
 触れば大体の長さは分かるが、やはり、鏡で見たほうが分かりやすい。しかし、この部屋に鏡らしい物はなく、もちろん、がこっちに来る時に持ってきてもいない。
 バッグに鏡を入れて持ち歩いてはいたが、コンビニに行くくらいだからと、財布しか持っていなかったのだ。

「何か、鏡の代わりになるもの……っと……」

 は代わりになりそうな物を探す。
 と言った所で、この部屋には殆ど代わりになりそうな物はない。

「あ、そだ!」

 は昨日、政宗に貰った短刀を思いだした。
 かなり綺麗に研いであるために、刃の部分は姿が映っていたはずだ。
 直ぐに短刀を鞘から抜き。横にして鏡のように自分の姿を映した。
 中々綺麗に写っている。これならば、大体の長さが分かる。

「あー……結構短くなってるなぁ。こっち」

 左側の髪は耳の直ぐ下くらいの長さになっている。そして、左から右へと段々長くなっている。
 どんな風がいいか、と考えていた時に背後にある襖の向こうから声がした。

様。失礼致します」
「はい、どうぞ」

 そして、襖がすぅーっと開けられる。

「朝餉の準備が出来て…………」

 朝食が出来たと呼びにきた女中の言葉が途中で途切れた。
 不思議に思ったは後ろを振り向く。
 彼女の目は大きく見開かれており、顔面は蒼白だ。

「あの……」

 どうかしたのか、とが聞く前に女中は叫んだ。
 それはもう、城中に聞こえる程の声で。

様っ!! 早まるのはお止め下さいませっ!!」
「え? な、何が……?」
「誰かっ!! 様がっ!」
「な、何事? ちょっ、ちょっと落ち着いて!」

 女中は取り乱していて、その上、彼女の言葉で多くの人が集まってきた。

「何事だっ!!」
様がぁっ!!」

 女中は既に泣きそうになっている。
 駆けつけた人達はの方を見てやはり、女中と同じような反応をする。

「誰か、政宗様か小十郎様を呼んで来い」
「はいっ!」
「stop! 俺ならもうここにいる」

 呼びに行こうとすると、異国語交じりの声が聞こえた。
 そこには、政宗と後ろには小十郎がいた。

「これは何の騒ぎだ?」

 人並みの中を通り、政宗はの部屋の前までくる。
 女中の叫び声は聞こえるし、その女中は泣きそうだし、集まった人達の顔は青いし。とワケが分からない。
 何より、それは全て、の部屋の前で起こっているのだから、全く何が起こったのかの予想すらできない。

 小十郎は泣きそうになっている女中をなんとか落ち着かせ、事情を聞く。
 そして、そのまま、政宗耳打ちした。

「I see. なるほどな……」

 政宗は小十郎から事情を聞いた後、を見る。
 は何が起こったのか全く分かっておらず、うろたえている。

……。とりあえず、その knife を俺に渡せ」

 の前まで行き、そしてしゃがみこむ。
 言われるまま、は手に持っていた短刀を政宗の差し出された手に置いた。
 その瞬間、ほっとしたような息をつく音が聞こえた。
 未だには何が起こったのか分からなかった。
 そして、政宗は小十郎に集まった人々を下がらせ、再びの方へと向いた。

、何で短刀なんか持ってた?」
「なんでって……髪がどうなってるのか知りたいなって思って。でも、鏡無いから、代わりになるもの何かないかと思ってたら、丁度いい所に短刀が……」
「はぁ……。やっぱりな、そんなとこだろうと思ったぜ」
「ねえ、一体さっきの何だったの?」
「……アイツ等はお前が自害すると思ったんだよ」

 政宗の答えに、は「はぁ?」と答えることしかできなかった。


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卯月 静 (07/01/25)