【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫 拾四】閑話 愛おしいモノ 後編
「鏡がいるなら言え。そうでなくても、周りの奴等は敏感になってるんだ」
呆れながら言った政宗の言葉に、は素直に納得した。 不利な状況の打破の為とはいえ、は自らの髪を切ったのだ。 そのようなことをする女子もいないだろうが、普通の女の子、ましてや姫君とあれば髪が短くなってしまったことで酷く落ち込むに違いない。 特にこの時代の女子は髪が長いのが普通だ。その髪が短くなってしまったのだから、自害をしようとしていると思われても仕方のないことなのかもしれない。 「……ごめんなさい……」 この時代の人と自分との感覚が違うことを実感させられた。 「そこまで気にする必要はねえよ」 自分の考えが軽がるしかったことに、自己嫌悪を感じ始めていたに、政宗は優しく声をかける。 「ほら、後ろ向け」 「え?」 「髪。切りそろえてやるって言っただろ。それともそのままの髪でいる気か?」 政宗に言われて背を向ける。 いくら、のいたところでは色んな髪型の人がいたとはいえ、このままの髪はいやだ。 自分では後ろはやりにくいからと、政宗に頼んだのだから、早く整えてもらう必要がある。 の髪はかなり不揃いだった。 短刀でザックリと切ったのだから、当たり前といえば、当たり前ではある。 そして政宗は、あの状況でとっさの判断とはいえ、髪を切り、状況を好転させたことは素直にすごいと思った。 事件の直ぐ後では、を危険な目に合わせてしまい、尚且つ、守ることができなかったことを気にしていて、のあの場での状況判断と決断の早さに気づかなかった。 しかし、気持ちも落ち着いた今の状態で考えると、のあの判断ができるものが、男といえど他にいるかと問われれば、疑問なところだ。 「あっ! この一房は切らないでね」 「ん? ……ああ」 は右側の髪を一房握っていた。 かろうじて元の長さが残っているところのようだ。 「他は切るんでいいんだな」 「うん、バッサリ切っちゃっていいよ」 部屋には政宗との二人しかいない。 騒ぎの時には小十郎もいたが、の髪を切るとなり、小十郎は部屋を離れた。 二人の会話もそれほど多くなく、部屋には政宗が髪を切る音がよく響く。 この、政宗が今髪を切っている、という娘は本当に不思議な娘だと思う。 一揆衆に手を貸し「不思議な力を持った姫」という噂を流し、制圧にきた軍の一部を手中に納め、異国語も解する。 政宗が何処から来たかと問えば、「月から来た」と言う。 正直言えば得体の知れない娘だ。本来なら警戒すべきところだろうとは思うが、なぜか警戒する気にもなれず、逆に興味が湧いた。 それはの持つ雰囲気が原因かもしれない。 普通の民よりもかなりの教養を持っているしかし、大名などの姫君のような雰囲気ではない。髪を自ら切るなどという大胆なことをあっさりやってのけ、戦闘はできないと思えば、自分の身を守るくらいの能力は持ち合わせている。 このような女にに、いや、このような人物に政宗は今まであったことはなかった。 「できたぜ。Are you OK?」 は切りそろえられた髪に触れる。 「うん、ありがとう。さすが器用だねー」 は笑顔で、とても嬉しそうだ。 素直なの笑顔を久しぶりに見たかもしれない。 「そういえば……」 「ん?」 「お前戦えたんだな」 「え? ……あー、少しだけね。本当にかじった程度ってとこだから、戦力にはならないと思うよ」 政宗の言葉に一時キョトンとしたが。思い当たり、答える。 は確かに戦えるし、そのお陰でこの間は助かった。しかし、戦えるといっても、現代での部活でやっていた程度で、いうなればスポーツだ。 こちらの、実戦第一の物とは明らかに違う。 「それにしては、それなりの実力のように見えたけどな」 確かに、政宗からみれば、の実力は戦力になりそうなほどの物ではなかった。 もちろん、政宗はを戦場に連れて行こうなどとは思っていないし、ましてや、戦力にしようとも思っていない。 だが、少しかじったくらいでは、雑魚だとはいえ、あの暴漢を伸すことは出来なかったはずだ。 「短刀じゃないやつのがよかったか?」 が戦えると知っていれば、他の、もっときちんとした武器を贈ってやってもよかったのだ。 「ううん」 は首を横に振る。 「これで十分。むしろ、これがいい。綺麗だし、気に入ってるし。流石に薙刀を持ち歩くわけにはいかないし」 とは答える。 「それに、政宗さんが初めてくれたものだし」 政宗は、短刀を愛おしそうに見つめて答えたに一瞬目を奪われた。 今まで女に贈り物をしたことがないわけでもないし、喜んでもらえなかったわけでもない。 でも、嬉しそうに自分の贈った物をみる女に目を奪われたのは初めてだった。 次へ 戻る 卯月 静 (07/01/26) |