【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫 拾伍】閑話 傍らに居る条件
気持ちの良い朝。
雀であろう小鳥の声が聞こえる。 現代では朝起きてもここまで清々しい雰囲気ではなかっただろう。 しかし、こんな清々しい朝でも、はまだ寝ていた。 電気のないこの時代では、夜寝るのは早いし、朝起きるのも早い。 文字通り、早ね早起きだ。 は現代っ子らしく、夜更かしをするし、何もないときは昼近くまで寝ている習慣がついている。 それでも、此処に来て大分慣れたために、早く起きることができるようになった。 「Hey! Lady. Good morning! いつまで寝てんだ? 起きろ」 「はっ!? 何っ!?」 が、今日は政宗に起された。 布団の中でまどろんでいたのだが、政宗に布団を引っぺがされて起された。 そして、さっさと着替えろといわれ、渋々着替えると、今度は道場に連れていかれた。 「何で道場?」 「この間のことは俺に責任がある。が、自分の身くれぇは守ってもらわなければいけねえからな」 そういって、に木製の薙刀を渡した。 どうやら、これで練習しろということらしい。 しかも、相手は……。 「Are you ready?」 「ノーッ!! 無理だって、無理!!」 しかも、筆頭自ら相手をしてくれるらしい。 「手加減してやるから。ほら、構えろ」 「ちょっ! タイム!! ギャーッ!! 待ってって言ってるじゃん! って手加減全くしてないでしょ!!」 「そんなんじゃ、あっと云う間にやられちまうぜ」 容赦なく打ち込んでくる政宗に、防ぐこともままならない。というか、防ぐどころか逃げるのも精一杯だ。 素人相手にこの仕打ちは酷いんじゃなかろうか。 政宗の攻撃が止み、はその場に座り込んだ。 もう息が上がってしまっている。 「て、手加減…………して、くれる……って言ったじゃん」 「情けねえなぁ。あのくれえで息が上がるなんてな」 対する政宗はというと、打ち込んできた攻撃の激しさの割りに、息一つ乱していない。 しかも、笑っている。先ほども楽しそうに打ち込んできていた。 まるで、が慌てるのを面白がるように。 実際政宗は面白がっていたようで、の体には当たらないように、寸止めだったり、際どいところだったり、の薙刀にあえて打ち込んだりしていた。 そのため、には怪我は一つもないのだが、恐い物は恐いし、思いっきり得物に打ち込まれれば手は痛い。 は休憩しようと、壁際へ行く。 政宗は休憩するを咎めはせず、他の人達の相手をしている。 「飲むか?」 目の前に水の入った湯のみが差し出された。 「あ、ありがとうございます。……この場で飲んでもいいんですか?」 水を持ってきたのは小十郎だった。 喉が渇いていたので素直に受け取ったが、ここは道場。ここで飲み物などを口にしては、いけないのでは、と思い尋ねた。 「構わん。うちはそこまで五月蝿くはないからな」 どうやら、良いらしい。 小十郎はに水を渡すと、その隣に座った。 「政宗様は、あんたのためを思ってここに連れてきたんだ。ああ見えて、この間のことを結構気にしていらっしゃる」 「……知ってます。でも、別に政宗さんのせいじゃないのに……」 「政宗様はお優し過ぎる。人の上に立つ以上、時には非道になることも必要。そうしないと、誰かに付け込まれる。この乱世なら尚更のこと」 「でも、それは政宗さんの欠点もあって、良いトコでもあると思いますよ。……だから、小十郎さんも傍にいるんですよね」 真っ直ぐに、そしてはっきりと言われたの言葉に少なからず、小十郎は驚いた。 この娘は本当に賢しい。 そして、この娘なら、政宗の傍にいても構わないかもしれないとも思った。 「……」 「はい?」 「俺は政宗様に危害が及ぶなら、女子供とて容赦はしねえ。だが、そうでない限り、俺もお前の安全を保障してやろう」 それだけを言って、小十郎はの傍から離れた。 「えっと……今のは……小十郎さんも守ってくれるってこと?」 小十郎の言葉に少しばかり困惑しつつ。しかし、小十郎が自分に対して敵意を抱いてないと知り安心した。 ここで生活していくに当たって、小十郎に敵意を向けられていてはいろいろと大変なのだ。 「What were you talking about?」(何を話していた?) 「んー。政宗さんについて?」 「俺について?」 「うん。で、前より小十郎さんと仲良くなれましたって感じかな」 「小十郎と friendly になあ……」 「さてっ」 質問に答えるとは立ち上がった。 政宗はどうした? といった様子でを見上げている。 「稽古の相手してくれるんでしょ? 休憩したし、今度は私にも打たせてよ。打たれっぱなしは面白くないし」 「Okey! 思いっきりこいよ」 その日は昼過ぎまで稽古をしていた。 相変わらず政宗の息は上がらず、ばかりが疲れていた。 次へ 戻る 卯月 静 (07/01/28) |