【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 拾六
城の生活にも慣れ、城の人々と接するのも慣れてきた。
ついこの間は、小十郎さんとの関係も良好な物になった。今では、小十郎の畑を手伝わせてもらえるくらいだ。 特にすることがなく、縁側で庭を眺めながらぼーっとしてると声をかけられた。 「様。これを政宗様のお部屋にお願いしますわ」 声をかけられた女中に渡されたのは茶と菓子の乗った盆。 城にいるだけでは、することもあまりなく、暇だった。政宗は政務があるからいつも相手をしてもらえるわけではないし、小十郎は政宗の見張りだ。 仲の良くなった女中もいるにはいるが、彼女達にも仕事がある。 この城の中で仕事がないのは正しくだけだろう。 ある日は、あまりに暇なので、政宗の部屋に茶を持っていく女中を呼びとめ、自分が持っていくと言った。 政宗はが部屋に来ても、怒りはしないと知っていた。 しかし、女中にしてみれば、姫君 半分無理やりのような感じで政宗に茶を持って行くと、何故か政宗はすごく嬉しそうだった。 はやっと休憩になるからだと思ったのだが、小十郎が、が持っていく方が、政宗の仕事の速度が早くなるとの仕事になったのだ。 「政宗さん、開けますよ」 「やっと tea break か。小十郎、休憩だ」 「もうそんな時間ですか。今日の分は終っていますし、構わないですね」 部屋の入り口で立って、政宗と小十郎の話しを聞いていたが、結論が出、は部屋に入った。 「、ここに座れ」 「はいはいっっと」 息の詰まる政務から開放されたからか、政宗は嬉しそうだ。 政宗が示した場所に座り、二人に持ってきた、茶と菓子を出す。 もちろん、女中はの文も用意してくれている。 「あー、美味しー」 のんびりとした、おやつの時間。 今が乱世だということを忘れてしまいそうになる。 そういえば……。 「政宗さん。奥州の周りってどんな武将がいるの?」 城と、この時代の生活に慣れるのに必死で、結局今がいつの時代なのか調べるのを忘れていた。 年号を聞いたところでには分かりはしないが、有名な武将であれば、大体の時代は分かるかもしれない。 いつきのとこにいたときにも武将の名は出てきたが、聞いたことのない名前な為、全く聞いたことがなかったのだ。 唯一知っていたのは、この目の前にいる、奥州筆頭独眼竜伊達政宗だけだ。 「周りの武将か……。小十郎、map もってこい、コイツに説明するから」 政宗に言われ、小十郎は地図を持ってきた。 かなり古い地図だから、の時代であれば、相当な額になるのではないだろうか。 「ここ、甲斐の虎、武田信玄。こっちが、軍神上杉謙信。で、こっちが」 と、政宗は地図を指しながら説明していく。 出てくる武将はどれもの知っている武将ばかりだった。 どれくらいの時代だろうと、が考えていたが、次の政宗の言葉に耳を疑った。 「ここが、魔王、織田信長がいた所なんだが……。小十郎、織田はこの間の桶狭間で敗れたんだったな?」 「はい。多勢に無勢で、圧倒的だったと」 「えッ!? 桶狭間って……今川義元?」 「なんだ、知ってたのか」 「あ、うん。噂で……」 は自分が動揺しているのが分かった。 しかし、できるだけ、平静を努める。 「そ、そろそろ、戻るねっ! 政務頑張ってねー」 は持ってきたものを盆に乗せ、部屋を出た。 自分では平静を装っていたが、その場にいた伊達主従が気付かぬはずも無く、が部屋を出た後、互いに目配せをした。 さて、混乱しすぎているから、落ち着いて考えよう。 『織田信長が桶狭間で敗れた』 コレは一体どういうことだろう。 「桶狭間の戦い」といえば、有名な戦国時代の合戦だ。 だが、あの合戦の勝者は織田だったはずだ。あの合戦から信長は天下統一に向けて進み始めたはずだ。 しかし、織田は敗れたと政宗は言った。 教科書にも載っている、合戦の勝者が違うのは何故だ。 政宗が嘘を言うなんてこともないだろうし、小十郎も同意していた。 と、すると、考えられることは……。 「歴史が……変わった……?」 過去である戦国時代にタイムスリップしていると思っているにとって、それ以外の可能性は思いつかなかった。 大きな合戦の勝敗が違っているということなんてあるのだろうか。 仮に現代程記録が正しく残せなかったり、時を経ることで少し間違って伝えられたりしたとしても、勝敗まで違うなんてことはないはずだ。 そもそも、勝敗が違えば、先の世も変わってくる。 「やっぱり、歴史が……変わった……」 何度考えても、この結論にしかたどり着けなかった。 どうして、自分の知っている歴史と今のこの時代の事実とが違うのだろう。 原因は……。 そこまで考えて、は恐ろしくなった。 「私が……いるから……?」 の知識の中の歴史とこの時代の違い。 それは、この時代にがいるということだ。 しかも、はこの間、いつき達に手を貸して、一揆を手伝った。 本来なら勝つことのできないであろう、侍達に勝ち、そして、その侍達を仲間にし、処分されるはずの首謀者は処分されなかった。 いっきに手を貸すときに、自分は思ったではないか。 「自分がここにいる時点で少なからず歴史は変わっている」と。 「どう……しようっ……」 自分は浅はかだったのだ。 歴史が変わることの重要性を全く分かっていなかった。 この戦乱の世のこと、歴史が変わるということは、それ即ち。 「死ぬはずの人は生きて……死ななくてもいい人が死ぬ……」 が何をしたことで歴史が変わったのかは分からない。 しかし、少なからずあの一揆の出来事は影響してるに違いない。 そもそも。あの一揆で、は自分の噂を流した。 そして、今あの一揆の「姫君」は伊達にいると多くの人が知っている。 不思議な力を持っていると噂を流したのだから、その力を得ようと伊達に戦を仕掛けてくるかもしれない。 そう、が原因で戦が起こるかもしれないのだ、本来なら怒らなくてもよい戦が……。 「ここから……出て行かなきゃ……。ここに居ちゃ、いけない……」 が原因で戦が起きれば、伊達軍の人達は戦にいかなければいけない。 政宗がしなくていい怪我を負い、ひょっとしたら……。 どうしてその可能性を考えなかったのだろう。 一揆に手を貸し、いつき達を助けていい気になっていた報いかもしれない。 翌日。部屋にはの荷物と自身の姿は何処にもなかった。 次へ 戻る 卯月 静 (07/02/01) |