【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 拾八
まだ、宴会の途中。女将に声をかけられた。女将はお茶と茶菓子の乗った盆を持っている。
「ちゃん、これを離れのお客に出してくれるかしら。それを持って行ったら、今日の仕事は終わりでいいから」 「はい。分かりました」 言われた通り、は離れにお茶を持っていく。 少し懐かしいかもしれない。 城にいたころは、毎日お茶と茶菓子を持っていって、政宗とティータイムをしていた。 あの頃は本当に楽しかった。ほんの数週間前のことだが、酷く昔のことのように思う。 こんなことを考えてしまうのも、政宗に会ってしまったためかもしれない。 「失礼致します。茶と茶菓子をお持ちしました」 襖の前で声をかけ、スッっと襖を開ける。 そして、そのままは再び固まった。 「何をしてる。tea を持ってきたんだろう。早くもってこい」 「は、はい……」 まさか、この離れを使っているのが、政宗だとは思わなかった……。 てっきり、彼はまだ、あの宴会の場にいるものだと思っていたのだ。 内心混乱しながらも、政宗に茶と茶菓子を出す。 「一揆衆の姫君に、かぐや姫、そして今度は旅籠の仲居か。本当にアンタは飽きないな」 「な、何のことでしょうか……」 「知らぬ存ぜぬで通す気か……。まあ、いい。どうして俺から黙って離れた?」 「私には何のことか分かりかねます」 知らないで通そうとするが、政宗はお構いないに問いただしてくる。 「桶狭間……。アンタは織田の関係者だったのか?」 「ですから、私には何のことだか……」 「桶狭間で織田が敗れたと聞いてから、アンタの様子がおかしかった。最初は織田の間者かと思った。が、それだと、一揆衆に混じっていたことも、かぐや姫だといったことも回りくどくて説明がつかねえ」 政宗はの答えには全く無視し、話す。 失礼しますと言って、その場から離れることもできるのに、何故自分はしないのだろうか。 「……何があった?」 「…………伊達様には、関係のないことで御座います」 の答えに、政宗の眉間に皺が寄る。 「やっと、答えたと思ったら、関係ない、か。随分と強情な lady だな」 「………………」 「だが、関係なくはねえだろ。俺がアンタを城に連れてきたんだ。俺には理由を聞く権利があるはずだ。違うか?」 政宗はから話しを聞くまで引き下がらないつもりのようだ。 「……私が居ては、奥州に、ひいては伊達政宗様本人に災いが及びます。ですから、自ら城を出たまでのこと」 「どういうことだ?」 「そのままの意味でございます」 は政宗と決して視線を合わせない。 きっと、いや、絶対に、今政宗と視線を合わせてしまえば全てを話してしまう。 そして、政宗に甘えてしまう。 「俺の為に城を出たってことか……。なら、戻って来い、」 政宗のその言葉に耳を疑った。 災いをもたらすかも知れない女を再び呼び戻すなんて……。 「俺の為なら、もう一度、俺の傍にいてくれ……」 そう言った政宗の目は、今まで以上に真剣で、そして、どこか懇願するような瞳でもあった。 次へ 戻る 卯月 静 (07/02/07) |