【戦国御伽草紙:雪国のかぐや姫 弐拾参】

閑話 願いはアナタの唯一に





 政宗が直々に迎えに行った、ということもあり、に対する伊達軍の『政宗の嫁候補』は既に浸透していた。
 というより、既に認識は『未来の奥方様』になっている。
 としては、そう思われるのは嫌ではない。が、ここで一つ疑問に思った。
 政宗に妻はいないのだろうか?
 政略結婚も普通なこの時代。
 しかも、一夫多妻制。
 そして、結婚する年齢は現代よりも早い。なんてもう20歳は過ぎているから、この時代で言えば行き後れのうちにはいるだろう。
 行き後れ云々は、この際置いておくとして、今重要なのは政宗の妻だ。
 伊達政宗となれば、妾の一人や二人いてもおかしくない。
 子供の生存率の低いこの時代に、できるだけ、家系の血を残すためには止むを得ないだろう。

「って、頭で分かってても、なかなかねぇ……」

 この間、はっきり、政宗に「好きだ」と言ってもらえて、嬉しかったし、恋仲になったのだが、別に政宗の側室になったわけでもないから、他の妻が居る場合自分はどう対処していいのか分からない。
 とりあえず、ここは聞くしかないと、小十郎の部屋に向かった。

 小十郎の部屋には、小十郎と、もう一人、青年がいた。
 年齢は政宗にと同じくらいの青年。
 もちろん、彼も伊達軍らしい出で立ちで、現代でいえば、ヤンキーだ。

「ひょっとして、今お邪魔でしたか?」
「いや、重要な話をしていたわけじゃないから、気にするな」

 小十郎の部屋で、伊達の兵士に会ったことなど、今までなかったから、重要な、例えば、作戦会議などしてたか、と思ったが、そうではなかったらしい。
 大丈夫だと言われ、は小十郎の側まで行き、座る。

「ああ、紹介しよう。コイツは伊達成実」
「よろしくね。へぇー君が噂の……」

 成実と言われた青年に、上から下までじぃーっと見られ、は正直反応に困った。
 じっと見られるなんて、この城に来た時以来だ。

「成実、それくらいにしておけ。が困ってるじゃねえか」

 小十郎に諭されて、成実は、

「ゴメンゴメン」

 と、軽く謝った。

、俺に用があったんだろう?」
「あ、そうだった。一つ聞きたいことがあるんですけけど。政宗に正室とか側室とか居るんですか?」

 「今日のご飯は何ですか?」と言った声の調子で、とんでもないことを聞くに、小十郎は驚いた。
 さらっと聞いたことではなく、質問の内容にだが。
 隣で聞いてた、成実は面白いことが始まりそうだと、興味津々だ。

「なんで、そんな事を聞く」
「政宗に正室とか側室とかが居るなら、考えて行動しないといけないし」
「その心配はねえ。政宗様にはまだ、御正室どころか、御側室も居られないからな」
「うちの娘を是非って話は殿に結構きてるけどね」

 その返答に、は驚いた。
 史実の伊達政宗の奥さんが誰だったかとかは知らないが、それでも、この時代なら側室くらいはいるだろうと思っていたのに。
 驚いたと同時に、嬉しくもあった。
 現代人のにとって、一夫多妻制を許せるかと言えば、気持ち的には許せないだろう。
 いくら、それが一般的だといっても、自分の知らないところで、自分の大好きな人が、自分以外の人に愛を囁いているなんて、耐えられない。
 浮気という概念ではないから尚更のこと、には耐えれないだろうと思った。

「ひょっとして、ちゃん、殿の正室狙ってるとか?」

 成実は、に茶化すように言葉を投げかける。

「正室になりたいとか思ってないですよ。というか、婚姻に関して、あんまり願望とかないので、今のままでも十分満足ですから」

 笑顔で答えるに、聞いた成実はもちろん、横でいた小十郎も呆気に取られた。
 周りの姫たちはもちろん。ここで働いている女中達の中にも、政宗の妻にと望む者が多いというのに、目の前のこの女性は、今の、恋仲の状態でいいという。
 政宗から、粗方事情も聞いて、がこことは違う時代から来たと知っていたが、そこでの考えと、ここでの考えは少し違うようだ。
 無論、だけが変わっているという可能性もあるが。

「あ、私、政宗に呼ばれてたんで、行きますね〜」

 と、出て行った。

「あれって態と?」
「政宗様によると、態との時もあれば、そうじゃない時もあるらしい」
「一番性質が悪いんじゃね?」

 そういって、政宗の部下二人は溜息と共に、主にえーるを送った。


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卯月 静 (07/02/25)