【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 弐拾伍
政宗に贈ってもらった着物を着てからというもの、の着付けをした女中達は何かとを着飾りたがった。
「よっぽど持て余してたんだ……」 彼女たちの腕前は現代で言えば、トップスタイリスト並だろう。 城に勤めているのだから、技術がかなり上だと言うのは当たり前と言えば当たり前だが、それでも、その技術を披露できないこの伊達軍では宝の持ち腐れだったのだろう。 男共を着飾るわけにはいかないのだから。 「でも、政宗なら女装も似合うかも……」 顔はいいし、着物であれば、胸が無くてもいい。 それに、彼女達が化粧を施せばきっと絶世の美女が出来上がるかもしれない。 と、政宗の女装を思い浮かべてしまった。 「何がそんなに面白いんだ?」 「あ、政宗」 クスクスと笑っているところを、バッチリ見られたようだ。 先ほどの独り言を聞かれていなければいいのだが。 「何でもないよ」 と笑顔で答える。 そのまま、何もつっこんでこない。どうやら、独り言の方は聞こえてはいなかったようだ。 「今日は袴なんだ? 着物着ないの? 似合ってたのに」 政宗の隣にいた成実が声をかける。 最初に着物を着た時、もちろん、成実のところにも連れて行かれた。 そこには、成実だけでなく、他の部下達もいて、皆じーっとを見ていた。 今思い出しても結構恥ずかしい。 「袴の方が動きやすいですから」 「綺麗なちゃんが見れると思ったのにな。残念。あ、俺に対して敬語じゃなくていいよ、敬称もいらない。堅苦しいの嫌いだし」 「成実、俺の前で堂々とを口説くとはいい度胸だな。Are you ready?」(覚悟はいいか?) チャキっと刀に手を掛ける。 成実は「げっ」と言って顔色を変えた。 「俺は別に口説いてたわけじゃないから?!」 成実は斬られてはいけないと、その場から逃げた。 政宗自身も斬るつもりはないし、成実も分かってはいる。 しかし、政宗に斬るつもりはなくても、殴るくらいは確実にする。 それくらい、政宗の顔は不機嫌で、成実はそれを察して逃げたのだ。 「視線?」 「うん」 いつものように、政宗の政務の合間のティータイム。 そこで、は最近気になっていたことを話した。 「いつも誰かに見られてるような視線を感じるんだよね」 視線を感じ始めたのは最近のことだ。最初は気のせいかとも思ったが、その視線は明らかな物で、人の気配などをあまり感じないでさえ分かる物だった。 少し前に城をこっそり抜け出したという前科があるために、それを防ぐ為に監視でもつけられたかと、政宗に尋ねてみたのだ。 しかし、当の政宗は監視なんてつけていないという。 それに、他からの侵入者がくることもないハズだと言い切る。 が感じるほどの視線の持ち主を政宗や小十郎、はては他の家臣や忍が気付かないわけがない。 「そっか……じゃあ、私の気のせいかも。ごめんね、心配かけて」 「いや、話してくれて助かる。また前みたいに消えられたら敵わねえからな」 「もうやらないって……」 一先ず視線はの気のせいだと思うことにした。 もちろん、何かあったらいけないから、何か変わったことがあれば、政宗か小十郎には言うようにといわれた。 視線の主はのみを見ていて、尚かつこの城の者であれば、他の者が気付かなくても無理はないのではあるが……。 「やっぱ、気のせいじゃないよね〜……」 この間は気のせいだと、政宗には言ったが、あれから一向に視線が無くなることはない。 どう考えても、気のせいでなく、確実には自分が見られていると感じた。 いや、感じたというよりも、確信した。 「誰の視線なのかってのが分からないのがなぁ〜」 確実に悪意のある視線だが、その悪意のある視線の持ち主が誰なのかが分からないのは気持ちのいいものではない。 「どうにかすべきだよね」 どうやって犯人を捕まえようか、と考えながら、部屋に戻る。 しかし、襖を開けては固まった……。 「何これ……」 部屋にはの着物が散乱し、散らかっていた。 散らかっているのは、着物だけでなく、この時代の字が読めるようにと、練習の為に読もうと思っていた書物も散らばっている。 このままにしておくわけにもいかず、仕方なく片付けることにした。 洋服と違って、着物のたたみ方には慣れていないは、一つの着物を片付けるのに、とても時間がかかるのだ。 誰かに手伝ってもらえば早く終るだろうけど、この参上を見たら、きっといろいろ聞かれるだろう。それは面倒だし、大事になっては困る。 きっとこれも、あの視線の持ち主がやったものだろうと思うが、この時点では誰がやったかも分からないし、服が散らかっているくらいなら、まあ、いいかとはそのままこのことは捨て置くことにした。 犯人を捕まえて、注意はしたいが、現行犯でなければ問い詰めることも出来ないだろう。 なにより、犯人の目星すらついていないのだ。 次へ 戻る 卯月 静 (07/03/03) |