【戦国御伽草紙】

雪国のかぐや姫 弐拾六





「うわぁ……」

 への嫌がらせはエスカレートしていった。
 そして、今回はの着物が切り刻まれていた。

「ひでぇな、こりゃ」

 誰もいないと思っていたが、背後から声が聞こえ、振り向いた。
 そこに居たのは政宗。
 政宗は切られた着物を手に取る。
 その切り口から刃物で切られたもののようだった。

「この間言ってた視線の持ち主か?」
「多分そうだと思う」

 言いつつ、着物を片付けようとするを止め、政宗は女中を呼ぶ。
 直ぐに部屋に散乱していた、切られた着物は片付けられた。

「悪かったな」
「何が?」
「気になる視線を感じるって聞いてたのに、何も対処しなくて悪かった」

 半分落ち込んだように言う政宗には明るく返す。

「政宗が気にすることじゃないって。私も気のせいかと思ってたし」
「だけど、今回だけではねぇだろ?」

 真っ直ぐを見て言う政宗に心配かけたくないから、と嘘をつこうと思ってたが出来なかった。

「え……今回が初めて……」
「………………」
「……じゃないです……」
「そういうことなら早く言え」
「ごめん……」
「大体、お前のことだから俺に心配かけたくねぇとかって理由だろ」

 政宗は呆れたように言う。確実にの思惑はバレているらしい。

「で、どうすんだ?」
「犯人を捕まえる」

 問われたは、キッパリと答えた。
 着物は散らかっていたり、視線を感じたりはまだいい。
 しかし、着物をあれほど切られては、このままにしておくわけにはいかない。
 政宗は度々着物を贈ってくれたが、あの切られた着物は最初に政宗がに贈ってくれたものだ。
 冷静にしてるようにも思えるが、は心の中では怒っていたのだ。

「悪いけど、政宗、協力してくれるよね」

 政宗に頼むの笑顔はどこか恐いと政宗は感じた。



 犯人を捕まえるべく、部屋には政宗に用意してもらった着物を飾ってある。
 と言っても、切り刻まれる可能性があるから、新品は飾れないし、高い物も飾れない。
 一応これは中古品の着物だ。そして、値もそれほど高い物でもない。
 しかし、それでは餌にはならないからと、この着物をに贈るというパフォーマンスをしてもらった。

「これで犯人がくるはず」
「本当にこんな作戦で犯人が現れるのか?」
「意外と効果あるかもしれないよね」

 隣の部屋から、物音を聞き取るために、と政宗は控えていた。
 先ほどの会話は上から、、政宗、そして……。

「何でお前がそこにいるんだ、成実」
「面白そうだから!」

 笑顔で言う成実は本当に面白がっている顔だった。

 さて、の考えた作戦だが、これまでの傾向から、きっと犯人はが政宗の寵を受けているのが気に入らないのだろう。と考えた。
 そう考えれば、これまでの視線の悪意の意味もつくし、切られた着物は政宗から貰ったものだから説明もつく。
 今回の餌になる着物は中古品だが、そうだと周りには知らせず、尚且つ政宗が贈った物だとと思わせる為に、その着物を政宗から直に渡してもらったのだ。
 それも、大勢のいる人の前で。
 これできっと、に嫌がらせをしていた者にも「政宗がに着物を贈った」ということが伝わるだろう。  そして、きっと、また来るはずだ。
 は渡された着物を持って、それを飾るからと女中に頼んだ。
 そして、その時に、さも嬉しそうに女中に政宗から着物を貰ったことを話したのだ。
 が政宗の寵を受けているのが気に食わないのであれば、きっとこのことで尚且つへ嫌がらせをしようとしてくるはずだ。

「しっかし、殿っていつもあんな風にちゃんに贈り物してんの?」

 成実は政宗の従兄に当たるためか、他の家臣とは政宗に対する態度が違う。もちろん、従兄といっても、この奥州を治める王は政宗なので、「殿」と呼んではいるが、それも成実が言うとまるでニックネームのように聞こえるから不思議だ。

「んなわけあるかよ。あれは態とだ」

 成実の言ったのは、が政宗に頼んだパフォーマンスのことだ。
 は政宗に、私への贈り物と分かるように渡してくれと頼んだだけだが、政宗は言葉以上のことをしてくれた。
 今思っても恥ずかしい。

「態とじゃなかったら、恥ずかしすぎて、私はプレゼント拒否するよ……」

 が恥ずかしいというのも尤もで、まず、に着物を贈る時、政宗はを呼び止めた。
 それはいい。
 次に、の腰に腕を回し引き寄せた。それも大勢のいるまえで。
 まだ、それもいいだろう。
 最後には、贈る着物をにかけて、尚且つ褒めちぎったのだ。
 確かに言われて嬉しくないわけではないが、大勢の前で言われたら恥ずかしすぎる。それに加え、これでもかと言うくらいいちゃいちゃっぷりと見せ付けたのだ。
 もちろん演技だと分かっていたから、も応じたが、思えばあれは、電車の中でいちゃつくバカップルのようだったと思う。
 政宗はが恥ずかしがりながらも、その演技をしている姿を面白がって、どんどんやっていたのではあるが。

「態とって割には、結構楽しんでやってたじゃねえか、honey」
「楽しんでないし、ハニーって呼ぶな」
「つれねえな」

 先ほどの演技を再びやるつもりでもあるのか、ハニーと呼ぶ政宗を一蹴する。
 今はそんなことより、一刻も早く犯人をとっ捕まえたいのだ。
 横で笑ってる成実も無視して、聞き耳を立てる。

 すると、コトンッという音がした。


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卯月 静 (07/04/11)