【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 弐拾九
「お前っ! 何言ってっ!」
「そうだよっ! そいつはちゃんに嫌がらせしてたんだよっ!」 あまりにも予想もしていなかったの言葉に、二人は口々に諭す。 それも、無理はない。 散々嫌がらせをされて、その上切りかかられていたのに、それに対する処分が『自分の忍になれ』だ。 これは、優しいとかいう次元じゃない。どっちかというと……。 「貴女……莫迦なの?」 くのいちの言葉に、今回ばかりは政宗も成実も同感だった。 この地のどこに、自分の命を狙ったヤツを傍に置くやつがいるだろうか。 いや、目の前にいるのだが……。 たしかに、この忍は優秀だ。それは政宗が良く知っている。 が、そういう問題じゃない。 先ほどからの騒ぎを聞きつけ、小十郎を始めとする家臣達が何事か、と集まってきた。 中を見ようとする家臣達を小十郎は留めている。 「別に何も考えず言った訳じゃないんだけどなぁ。てか、命助かるんだから、莫迦はなくない? いや、まあ、私も貴女に対して言ったけどさ」 「……情けでもかけるつもり? それとも、慈悲深い所でも見せて、政宗様や伊達軍に取り入ろうってわけ?」 「別にそんな気は全くないんだけど」 「じゃあ、何っ! 私が許せないんでしょ! なら、今すぐ殺しなさいよっ! 貴女の命を狙ったんだからっ!」 女の言葉に、周りにいたギャラリーがざわめく。 物騒な単語が出たのだから当たり前だ。 ドスッ! 騒いでいたギャラリーが一瞬で水を打ったように静かになった。 「さっきから、死ぬ死ぬって、うっさいんだけど」 は短刀を女の顔の真横に突き刺している。 「人に散々嫌がらせして、政宗の気持ちも台無しにして、挙句の果てに、人に怪我負わそうとして……。なのに、全部死んでなかったことにでもするわけ?」 ギャラリーは固唾を呑んで見ている。 それもののはず、普段のからは想像も出来ない様子なのだ。 月から来た姫君と言われ、普段明るいが、女に短刀を突きつけている。 「死んで楽になろうなんて、甘いってのっ! 悪いけど、私は貴女を楽にさせてあげる程優しくないの。罪の意識を感じているのなら、その罪の意識を感じて一生苦しめばいい。感じてないなら、罪の意識が生まれるようにしてあげる。どっちにしても、罪悪感を感じないで楽になんてさせないから」 死んでしまえば何もかも無くなるのだ。 嬉しかったことも、悲しかったことも、罪悪感も、憎しみも、恨みも。全て無に帰してしまう。 だけど、死んだ本人は全てなかったことになるけど、生きている側はそうはならない。 無かったことにしようと思っても、どこかで覚えてて、無になることはない。 無になるのは、死んだ時だけだ。この女が死んで、無になるのはこの女自身だけ。嫌がらせをされたにはされた事実を消すことはできないし、切られた着物が戻ってくることもない。 「貴女が嫌だと言っても拒否権は貴女にはないわ。何が何でも私に仕えてもらう。嫉妬した相手に仕えること。これが貴女への罰よ」 そういうと、は短刀を引き抜き、鞘に収める。 「さて。くのいちさん。最初の任務をしてもらいましょうか。ここの散らばった部屋を片付けておいて」 そう言い放つと、部屋を出て行った。 呆然としていた政宗達だったが、見張りを成実に頼み、を追う。 周りにいたギャラリー達は相変わらず呆然としており、政宗が動いたことで、我を取り戻す。 「ああ、そうだ。伊達軍の皆さん。あのくのいちさんは私の忍ですから、危害を加えたら許しませんよ?」 ギャラリーの間を抜ける途中。はそう言い放つ。 妙に笑顔で、迫力があり、皆頷くしかできなかった。 と政宗が去ったあと、小十郎は集まっていたギャラリーを解散させた。 次へ 戻る 卯月 静 (07/05/08) |