【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 参拾
あの事件の後から、伊達軍のを見る目が変わった。
別に見下されたとかそういうことではなく、むしろ、その瞳に尊敬の眼差しが含まれている気がする。 相変わらず、のことは様付けで読んでいる伊達軍だが、心のそこから尊敬の念を込めて様付けで呼ばれている気がしてならない。と言うか、たまに「姐さん」と呼ばれているように思うのは気のせいなのだろうか……。 その上、が敬語を使うと……。 「俺らなんかに敬語なんて使わないで下さいよ!」 と、泣き付かれてしまった。一体どうなっているのだろう。 流石に年配の方々には、年上だから敬語を使わせてくれと言ったら、承諾してくれた上に。 「流石は政宗様の選ばれたお方じゃ! 年寄りを大切に扱ってくれるお優しいお心の持ち主ですな。全く、伊達の若い衆ときたら……」 と、誉められ、グチを聞く羽目になるところだった。 「小十郎さん、何とかなりませんか?」 「無理だな。諦めろ」 「そのうち慣れるって〜」 「慣れないから困ってるんだってばッ」 他人事だからと、成実はの状況を面白がってる。小十郎も、別段に危害が加えられているわけでもないから、そっけない。 もちろん政宗に言ってみたが、成実と同じ反応で、面白がっていた。そこら辺は従兄弟といったところか。 「なんで、私に対して皆あんな態度なんだろう……」 ボソッと呟くに、小十郎と成実は呆れる。 「ちゃん。分かってないの?」 「あれだけ派手な大立ち回りをやらかしたんだ、伊達の連中の目が変わるのは当たり前だろう」 二人曰く、この間のくのいちに対する対応が、への態度が変わった原因らしい。 「大立ち回りって……。あれは只私がキレただけなんですけど……」 今まであそこまで腹を立てたことは無いため、自身、自分がキレたらあんな風になるなど思っても見なかった。 むしろ、あのくのいちが、対抗して喧嘩にでもなっていたら負けていたには違いない。呆気にとられていたせいなのかもしれないが、くのいちがかかってこなかったのは幸いだったのだ。 それでも、あの事件のお陰ではこの城で住みやすくなった。 それまで、のことを政宗には相応しくないと思っていた者も、先日のあの事件のを見て、伊達軍を率いる政宗の隣にいるに相応しい人物だ! と思ったらしい。 一部では政宗とが祝言をいつあげるのか、と噂している者もいる。 城の者に認められたことは嬉しいが、やはり、伊達軍のあの態度にはなれない。 多分ずっと慣れない気がする。 「まだ、そんなこと言ってんのか。Give it up.」(あきらめろよ) 「そんなこと言ってもさ……」 いつの間にか背後にいた政宗に、は抱きすくめられた。 いつものことだからか、は別段驚くでもなく、そのまま何事もなかったかのように話を進める。 「そのうち俺の嫁になるんだ。今から慣れた方がいいだろ」 自信満々に言い放つ政宗。どうやら、政宗の中でが政宗の室になることは決定事項らしい。 その事自体はとしては、少々引っかかることがあるにしろ、イヤではない。 その上。 「あん時のお前は Cool だったぜ。流石俺の惚れた女だ」 と言われてしまえば、返す言葉もにはなかった。 次へ 戻る 卯月 静 (07/05/08) |