【戦国御伽草紙】雪国のかぐや姫 参拾弐
「よろしかったのですか?」 の部屋から出ると、小十郎が待っていた。 彼は部屋で政宗とがどんな会話がされていたか、分かっているようだ。 「何がだ?」 それを分かって、あえて、聞き返す。 「政宗様のお考えは分かります。ですが、あれではに嫌われかねませんよ」 を戦場に連れて行かないというのは小十郎も賛成だ。 あんな場所にを連れて行きたくないし、見せたくない。 これは自分の利己的な考えでしかないが、にはあのままで居て欲しいのだ。 「構いやしねぇ。それでアイツが守れるんならな」 返答を聞き、小十郎は溜息をつく。 もう少し言い方があっただろうが、政宗のことだ、言い切ってそのまま出てきたに違いない。 本当ならを説得して、了解させてそして、戦に行くべきなのだ。だからこそ早い時期に言うべきだと、再三小十郎は政宗に進言した。 しかし、政宗はそうしなかった。しなかった理由も分かるが、これでは政宗にとっても、にとってもよいとは言えない。 「『一揆衆を救った姫』がいれば、うちの野郎共の士気も大分上がるんじゃない?」 「成実……」 成実は始めを戦場に連れて行ってもよいと言った。政宗の傍に居る方が、どちらにとってもよいと。 身の安全なら自分がを守るとまでいった。それでも、政宗は連れて行くとは言わなかった。 成実の実力を軽んじているわけではない。小十郎と並んで、武の成実と云われる男だ。その実力は政宗が良く知っている。 成実の提案に賛成できないのは、成実にを守らせると戦力が減ってしまうということもある。しかし、最大の理由はただの政宗の我侭に他ならない。 を守るのは自分だけで在りたいのだ。 自分以外の男にを守らせたくない。それが例え自分の腹心であってもだ。 「だとしても、俺は連れて行く気はねぇ。士気が上がらねえっつーんなら、俺が直々に気合いれてやるよ」 そう言って再び歩きだした政宗に、尚も言い募ろうとした成実を小十郎が制した。 ダメだと言われるだろうとは、分かってはいた。 でも、ああもあっさり却下されるとへこむ。 いくら薙刀が使えるからといっても、戦場じゃなんの役にも立たないし、むしろ足手纏いなのも知っている。 そして、政宗がダメだと言ったのは、戦力にならないからではないことも十分承知している。 政宗は、自分の身を案じてダメだと言ったのだ。できるだけ、危険に晒したくないから、だからダメだと言った。 それは分かってはいる。 が政宗の立場でも同じことを言っただろう。 政宗がいくら強いといえど、戦場で、自分とを守りながら戦ができるはずもない。 「……『戦』なんて、自分には関係のないことだと思ってたのに……」 何故今まで考えなかったのだろう。伊達軍が戦に行くかもしれないということを。 戦国時代の大名なのだから、政宗が戦に行くのは普通のことではないか。 あまりに今が幸せすぎて忘れていた。 「戦争」という物があまりに自分とは関係のない事柄に思いすぎて考えなかった。 にとって「戦争」とは、昔の歴史上のことか、外国の国のことだった。 テレビや新聞、もしくは歴史の授業で聞くだけのもの。 外国で多くの人が死んでも、自分の身近な人が死ぬ可能性なんて無いとまで思っていた。 その場に、身近な人や、大切な人が行く。 考えると急に背中がゾクッとした。 思わず自分自身を守るように、自分を抱きしめる。 二度と会えない可能性があるなんて、考えもしなかった。 ずっと傍に居られるものと思い込んでいた。 そう考えると、恐いし悲しいのに、何故か涙はでない……。 次へ 戻る 卯月 静 (07/10/06) |